学園長のひとり言

平成12年11月11日

上田学園を開講してこの10月で4年目に突入した。

第1回目の生徒は大学1年で中退していた19歳の女の子と、小学校の高学年から中学をずっと不登校し,本来なら高校1年生だという女の子の二人で開講した。 先生は7人。先生は当初から全員仕事を持っている方にお願いした。

先生の中には先生をしている者も二人いたが、本職以外のことを教えて下さるという。各先生には、教育はしないこと。何を教えてもいいが生き様を見せて欲しいこと。生徒を一人の人間として扱い、嫌なことは嫌。不愉快なことは不愉快。良かったことは良かったと心の内を全部ブツケテ欲しいとお願いした。

授業が開始された。                                                                                                   長い間学校に行っていなかった彼女らにとって、きちんと授業のある時間割にはチョット窮屈を感じたようだ。しかし自分で選択したことには、“選択した”という責任をとるのが、人間として “当り前”ということをしっかり納得させたかった。どの先生も手綱をしめたり緩めたりしながら、一人の人間として本音で結構厳しく話し合いながら授業を進めていった。そして無事1年がすぎ2年目に入った。                                                                                                   大学を中退していた女の子から「先生、授業の中で勉強した異文化コミュニケーションの勉強を本格的にしたいのですが・・・.」という申し出があった。そして、再度大学を受験し合格。 「こんな人生が自分に来るとは信じられませんでした。頑張って勉強しています。」という1文の入った近況報告が、先生方の心配をよそに毎年来るようになった。そしてもう来年は4年生だ。

一人残った学生は「先生、自分がどんなに甘えていたか、先生方と話をしていてよく分かりました。」と夜間高校に入学。昼は上田学園、夜は夜間高校に通いだした。現在夜間高校の3年生。2年間の上田学園コースを終了後、もう少し上田学園の先生から学びたいことがあるのでと、1年延長して学園でも勉強を継続している。そして、長い間の不登校から、元気に物を考えるようになった彼女の今後を考え、大学受験を勧めた。勉強したいことがみつかった彼女は「やるだけやってみます!」と楽しそうに今月の推薦入試の準備をしている。

生徒一人、先生が10人になった頃、男子学生が入学。                                                                              小さいときから受験塾で“特組”に在籍。私立の中学に行っていた1年生頃から不登校が始まり、高校は2箇所行き、両校とも1ヶ月で退学。その後ずっと家でゲームをしていたという17歳。「将来何がしたいの?」と聞く先生に「可能性がありすぎて困るんです。」と言っていた。
彼の17年間で会ったこともないようなタイプの先生方に、人間としての尊厳や、人間としての思いやりなどをぶつけられ、ある時は涙を流しながら「先生ありがとうございました。」と頭を下げ、ある時は、自分が世の中からどのように見られているかに気がつき、考えさせられながら一皮も二皮も剥けて、思わず「いい男になってきたね!」と感嘆したくなるほど成長してきた。五月の連休後の三ヶ月間、学校の終わった放課後、先生からアドバイスされながら受験勉強をして大検の資格も取った。上田学園の3年目を終える来年4月から、再来年の国立大学受験に向けて準備をすると言う。英語で受ける面接もあり、来年は半年日本、半年英国の生活になるのではと、考えている。

やっと男子学生が入って生徒2人、先生が19人になった頃、中学2年生の男子が入ってきた。                                                       可愛がってくれたお父さんの急死。可愛らしくて勉強の出来る弟にたいするコンプレックス。自分を可愛がってくれない、信じてくれないという母親に対する不満を満杯にさせて。そんなことが不登校気味だった生活に拍車をかけ、家庭内暴力が始まっていた。そんな中、 担任の先生、校長先生、母親、本人とで話し合い、“ずる休みをしない”ということを条件に中学3年の9月までの1年間、上田学園で預かることになった。しかし、上田学園でのんびりできると考えていた彼にとって、上田学園の1年間は忙しいところだったようだ。

先生方からメチャメチャに可愛がられたけれど、約束ごとは厳しく追及されるは、「お母さんを大切にしてあげなさい」等と先生方からの注文も多かった。頭も良く、自分の中でしっかり納得出きるときちんと約束を守る“男らしい”学生だった彼は、上田学園に来て1ヶ月後には先生との約束通り、もう家庭内暴力をしなくなっていた。小学校3年生くらいからやり直した教科に少しずつ手応えを感じ始め、そのうち全く出来なかった中学3年の数学や英語もその気になれば、一人で解くようになっていった。 そして1年が過ぎ、無事に中学に戻って行った。

中学に戻ってからの彼に、色々な問題が出てきた。たまに会う彼の顔が荒み、頭に小さな禿をみつけ、泣きたくなるほど心を痛めた。そして、高校浪人を選択した彼をまた1年間だけ預かることにした。                                                                                                      荒んだ顔が穏やかになり、上田学園の勉強の合間を縫って、高校受験に向けての勉強も開始。8月には試しで受験させた大検も、数学を含めて5科目合格。今は、自分で自分の思う通りに一人で受験勉強したいという彼の気持ちを尊重し、それを応援することにした。長い人生の中の5年や6年の遠回りは何でもないし、生きている限り無駄になることは何もない。彼なら絶対できると信じて。

中学生と同じころ、19歳になる男子学生が入学してきた。                                                                            高校2年で中退し、仕事をしながら通信高校に行っていたという明るくて元気で“お祭り男”の彼は、どちらかというと理屈で物事を考えるのではなく、感覚で物事をとらえようとする学生だった。自分が一番年上ということもあって、皆の纏め役をつとめようとして頑張りすぎ、支えきれなくなるとチョット不登校気味になったりした。しかし、それも少し時間が経つとまた元気になって、授業に出てきた。そして他の学生の悩みの相談にのったりしながら、自分の問題を見つめだしていた。                                               そんな彼もこの10月、2年間の上田学園のコースを終了した。彫金かコックになりたいという彼は海外に出たいと希望し、私も行くことを勧めている。

確かに目的意識がない学生の留学はあまり賛成ではない。しかし、彼の性格や感性、上田学園在学中2回行った海外での彼の行動を考え合わせると、海外に行く目的がなくても、海外を目の端にいれてくるだけでも彼の将来には絶対プラスになると考えている。                                                                 彼には,これから御両親を説得するという仕事が待っている。どんな説得をし、どんな国に行くのか報告を楽しみにしている。

4年目に入った上田学園。                                                                                               過去のたった3年間にも色々なことがあり、お腹が痛くなるほど悩んだり楽しんだりした。でも、こんな素敵な生徒達と接することが出来たことに大感謝している。そして、それを支えて下さっている20名の先生方に、心から最敬礼。                                                                                     10月から、今までの学生とはまた一味違った、走りながら悩む学生が入学。私達上田学園の教師達が、彼を含めた学生達からどんなことを学ばされ、どのようにあるべく問題をあるべく方法で解決していけるのか、武者震いをしているところである。