学園長のひとり言

平成12年12月10日

1・2年前から「現代の若者をどう思いますか?」という類の質問をよく受けるようになった。こんな質問を受ける度に、「ああ、こんな質問を受けるほど他所様から見ると、私は歳をとったのか」と、内心ガッカリしていた。しかし最近になってフッと気がついた。これは、年齢の問題ではなく、どうもフリースクールをやっていることから来る質問なのではないかと。

「現代の若者をどう思いますか」という質問をされる度に、今の若い人と話をすると、知っているはずの日本語が宇宙語のように感じるし、モラルなどという言葉は旧石器時代から存在しなかったように感じるし、特に女子の背丈が急に延び、170cm以上はざらだし、頭は金髪、爪は真っ黒なマニキュア、足も長く、前後からでは男女の区別も出来ないし、その上、私の関わる若者は、明るい不登校に暢気なパラサイト。「彼等のことをどう思いますか」と聞かれて、一言で感想は述べられない。だからと言って、彼らを認めていないかといえば、それも一概には言えない。私達の若いときも、散々大人達に言われた。「今の若者は、全く理解に苦しむ」と。

今も昔も、素敵な若者も嫌な若者もいる。ただ歳のせいか、若い人を厳しく批判しようとする傾向にあるのは事実だ。しかし、その事実を差し引きしても、若い人の起こす事件(犯罪)を考慮すると、全ての若者に100点はあげられないし、何故か「本当の君は、違うよね?」と聞きたくなるような、偽者の自分を演じているように感じる若者も多くなってきているように思う。それだけに、自然体の素敵な若者に会うと嬉しくなる。

先日、ニューヨークで活躍する25歳の若者が学校に訪ねて来てくれた。彼は慶応大学を3ヶ月で中退し、リュック一つで海外を放浪。その後、色々な人との出会いがあり、現在はフランス人の教授と一緒に彼のアイディアで特許をとり、アメリカ人の投資家に投資をしてもらい、会社の社長をしていると言う。

国籍を問わなければ、このような話は結構海外では聞く話だ。ただ、彼のすごいところは、インド人の技師達にインドで会社を作らせて、インドの発展のために技術者を育て、一人立ち出来るようにすることを考えていることだ。

インドでは大学に行く年齢層が2,000万人居て、そのうち大学に行けるのは2,000人。そのうちの200人が工科大学に入学出来、そのうちの20名がコンピューター関係の学部に入学出来るそうだ。それだけに、IT関係の技術者は世界中から引っ張りだこで、なかなか地場産業としてIT関係の企業が育たないというのがインドの現状だそうだ。しかし、彼が組んだ優秀なエリート集団は、インドで会社をつくり、インドのために、インドの人達を育てたいと願っていたことに共感し、それを応援する体制に組織をしたと言う。

確かに、発展途上国で色々な日経企業が一生懸命努力して、現地と上手に同化して活躍している。しかし、いくつの企業がその国を育てようと純粋に考えて、組織作りをしているかは疑問だ。25歳の彼は、それを普通のこととしてやっている。

上田学園で彼は言う。「前に進むと考えると、知らない未知の国に行くみたいで不安になるだろうが、『自分の居るべき本来の場所に帰る』と考えると自然なので、気が楽になるのではないだろうか?」と。

私は上田学園の学生に「そんな小さいことにクヨクヨするより、世界を相手に生きたら?」と何時も話している。しかし、ニューヨークから来た彼は、地球を相手に生きているような生き方だ。それも、いとも自然に。

地球を相手に楽しんで仕事をし、活躍している彼の話に思わず「お話、有り難うございました。」と最敬礼。そして、「なんて面白い若者が育っているのだろうか?」と感嘆した。こんな若者がいるかぎり、「現代の若者をどう思いますか」という答えにネガティブな意見は、答として全く似合わない。

若い人の可能性は、つまらない大人の物差しでは計れない。どんな子供にも可能性があり、大きな未来がある。ただ、それを育てる土壌作りをするより、無意識に潰してしまう土壌作りをしてしまった感がある。上田学園は小さな学校だが、子供達の本来の可能性や未来につながる力を培う土壌の一部として存在出来たら、どんなに嬉しいかと考えている。

次回帰国したら、上田学園で子供達に色々な話をしてくれると言う。どんな話が彼の言葉で語られるのか、今から皆で楽しみにしている。

こんな素敵な若者に会える上田学園の子供達は幸せだと思う。そして私もまた、この素敵な若者から色々なことを学ばせて頂けることに、心から感謝している。