学園長のひとり言

平成13年2月12日


今学期最後の週の授業が行われている。

それぞれの道を見つけて子供達が巣立って行く。入学したときと比べると、別人かと思うほど逞しくなった彼らの横顔を見ながら、「上田学園と出会わなかったら、この子達はどうしていたのだろうか?」と、なんとも説明出来ない不思議な気持ちに浸っている。

いよいよ4月生募集に動き出そうと考えている。今年の募集人数は最高7名までの予定だ。しかし、子供達には沢山のクラスメートが欲しい。色々違った沢山の人に出会い、考え、悩み、その中から生きる道を見つけて欲しいと思う。

現実的には、沢山のクラスメートは無理なので、違った形で外の方と沢山の出会いがあり、その中で考え、悩み、学んでいけるようにしたいと、先生方と話し合っている。どんな学生が入学してきて、どんな授業があり、どんな結果を出して卒業していくのか楽しみだ。

私には現在93歳になる父親がいる。昨日も、入れ歯をどこかに置き忘れたと、家中を捜しまわっていた。食べることがメイン・ジョッブになっている今の父にとっては、大事件だったようで、とても悲しそうな顔をしていた。

社会的に高い地位に就く事が、成功者というのであれば、父は社会的には決して成功した人間ではない。84歳で人生最後の仕事を終えたが、それは、朝6時から午後3時まで、武蔵野市の自転車整備をする整備員の仕事であった。しかし、満州から引き揚げてきて、子供を食べさせるためにガードマンとして就職しているときも、整備員として働いているときも、父の穏やかさに慰められたと言って、わざわざお礼を言いに来て下さった方が何人もいた。

社会的に成功できるか出来ないかは、努力だけでは解決できない大きなものがあると思うが、父はいつも穏やかに自分の道を真摯に歩いていた。そんな父を見て、父以上に活躍している兄達が父を尊敬し、慈しんでいる。

人には人の歩みのテンポがあると思う。社会的に成功するかしないかは別にして、上田学園の生徒達には、自分のテンポでしっかり人生を歩んで欲しいと思う。その為に、自分には何が不足しているのか。何が出来ないのか。その為に、何を身につけたらいいのかを、しっかり理解出来る人間になって欲しいと思う。

今の時代は時として、苦手なこと、不得手なこと、出来ないこと等に目をつむり、何が出来るか、何が優れているかのみに焦点をあてて、それだけを伸ばすことを"よし"としているように思えるが、本当にそれでいいのだろうかと、疑問に思う事も多い。

表面的な格好良さだけを追いかけたり、コンプレックスを隠す手段として「それは、僕には必要ありません」と言って、自分を誤魔化すのではなく、苦手なこと、出来ないことを素直に認め、苦手なことでも楽しく学ぶことを覚えて欲しいと思う。出来てやらないことと、出来ないでやらないことは、同じ「やらない」といっても同じではないことを理解して初めて、本当に自分の優れているものを人にアピール出来るようになるのではと考えている。

上田学園の4月からの授業について、先生方との打ち合わせ始まった。学生達が理想とする家が建てられるように、道具の使い方がわからなかったり、道具の手入れを怠っていたために、いい仕事が出来ないようなことがないよう、しっかり授業の中で、道具の使い方、道具の手入れの仕方を伝授していくつもりだ。

4月からの学生はどんな人生設計をしていくようになるのだろうか。私達はそれを今から楽しみにしている。