学園長のひとり言

(毎週月曜日更新)
いつも遅れてすみません
平成13年8月21日


生まれてきてくれて、有り難う!

「こんな悲しいことが二度と起こらないように」と不登校、虐待、いじめ、自殺等に関係した本が、これでもかこれでもかと本屋さんの店頭を飾る。でも、また悲しくてやりきれない事件が起きた。

テレビに映し出された24才の母親と義父を見ながら彼らに聞こえないのは分かっていたが思わず、「馬鹿たれ!どうしてこんな可愛い子供に、こんな惨いことが出来るの?」と叫んでしまった。親の虐待の犠牲になった小さな子供の生前の写真に思わず「可哀相に!」と言う言葉しか出なかった。

どうしてこんなことが毎日報道されるような日常が、日本で繰り返されるようになったんだろうか。茶髪の髪の間だから上目ずかいに見上げる両親の顔は、まだまだ幼さと未熟さが残る。本当だったら、まだまだ親のところで「子供の権利」を一生懸命楽しんでいるころだろう。しかし、実際の彼らは「お父さん、お母さん」と呼ばれる立場であり、子供から頼られる存在なのだ。

「おばあちゃん」と呼ばれる人のなんと若いことか。高年齢出産をしていたら、なくなった孫は彼女の「子供」といってもおかしくない程だ。今回の事件を通して見聞きする彼女の行動は全く不可解だし、不快だ。彼女は彼女なりの愛情で孫の世話をし、子供の言いなりになったのだろうが、親としても、祖母としても自分の置かれている立場を全く理解していない。だから、他人からみるとはなはだ「無責任」に見えるのだ。

義理の親とはいえ、「息子」と呼んだ子供を死なせた若い父親。テレビに映されたその横顔を見ながら、子供を作るのは簡単だが、子供にとって本当に良い親になることがなんと難しいことか。親がしっかり親をして、その姿を子供に見せていたらきっとこんなことは起きなかったのではと、考えずにはおられなかった。

亡くなった子供にとって初めての夏休みで最後の夏休みになってしまった今年の夏。
例年にない暑さでグッタリしていた中、マスコミが連日とりあげていたこの事件。今では次の事件に置き換えられて、「そんなこともあったかな?」という程度の思いの中にあるだけだ。

この世に生を受け、これから少なくとも80年は生きただろう子供。その子供の笑顔に誰が「可愛い!」と思わず叫んで抱きしめてあげたのだろうか。子供の嬉しそうな顔を見て、「この子のために頑張ろう!」と誰が考えてあげたのだろうか。「大きくなれ、大きくなれ!」と願い「私達の子供として生まれてきてありがとう!」と誰が感謝したのだろうか。

不登校、引きこもり、虐待、犯罪、全ての事件は子供の責任ではない。全て彼らを取り巻く親も含めての大人の責任だ。何も難しいことを教える必要はない。人を大切に思うこと。愛し合うこと。尊敬し合うこと。感謝する気持ち。これらのことを、子供達を取り巻く大人達がしっかり実践して見せていたら、こんな悲しい出来事はおきなかったと思う。

大人はもう一度しっかり自分の周りを見回し、自分のことをしっかりみつめて欲しい。そして、親として子供達を取り巻く大人として自分達の行動を再確認したいものだ。本当に自分達は子供達に誇れる生き方をしているのかを。私達は神様ではない。だからパーフェクトは期待しない。しかし、一生懸命真摯に生きている姿が、大切なのだ。

子供達に言いたい。小さい子供、友達を大切にしよう。「大人が悪い!」と思うなら、どうしたらそんな悪い大人にならないでいいか考えてみよう。自分が大切なら、自分がやられて悲しいことや嫌なことは絶対人にするのをやめよう。友達が欲しいなら、こんな友達になりたいと思える友達に、自分がなろう。そうすると、本当にいい友達にめぐり会えるから。

君達が生まれたとき、きっと親は嬉しくて嬉しくて神様に「五体満足な子供でありがとう!」と感謝したはずだ。例え五体満足でなくても、自分達の子供に生まれてくれたことを神様に感謝したはずだ。

親に反抗し、言うことを聞かない子供達。問題を起こす子供達。そんな子供達に追い詰められ、くたびれてしまっただろう親達。でも、チョッと立ち止まって考えて欲しい。子供達の笑顔と貴方達しか頼る者のいない彼らのことを。そして、どんなときも、命の尊さをしっかり教えていきたい。子供達が生まれてきてくれたことを感謝しながら。大変でもいつか子供達から「お父さんとお母さんの子供に生まれてよかった!」と言われるように。

子供は親の所有物ではない。天からの授かりもの。天からお預かりした者だから、天にお返しするのは当たり前のこと。天にお返しする、即ち世の中に送り出すまでが親の責任。もし、子供のことで疲れはてたら、子供が大きくなるまで預かれなくてもいい。世の中に早くにお返しして。そしたら、世の中が子供達をくたびれた親の代りに、きっと育ててくれるから。一回奪ってしまった子供の命は戻ってこない。一時的な感情でしてしまったことは、リセットしたくてもリセット出来ない。

生きていくことは大変だ。いいことばかりではない。でも、生きて自分の人生をまっとうして欲しい。「生まれてきてくれて有難う!」と感謝されながら。