学園長のひとり言

(毎週月曜日更新)
いつも遅れてすみません
平成13年10月23日


「おめでとうございます。貴方は今日から中学生です。」

上田学園の秋学期が始まって12日。この12日間は生徒も先生も手探りで授業を進めている。何故なら、午前中を徹底的に基礎勉強をする時間に当てたからだ。それも徹底的な基礎勉強。算数と国語と英語の基礎勉強だ。

上田学園を始めてまる4年。子供達は確実に変化をとげ自分の道をみつけ、ある者は大学へ、ある者は高校へ、ある者は仕事へと歩み出している。しかし、何かが違うという思いがずっとしていた。先生と生徒のやりとりを聞きながら何かが不足していると感じていた。
先生方からは、基礎学習が出来ていないので授業が進まないということは聞いていた。 どうしてこんなにコミュニケ―ソンがとれないのかも不満だった。不思議だった。そして気が付いた。"基礎学習が出来ていない"の基礎学習の意味が考えていた以上に低学年の基礎学習であることに。

それに気が付いてから生徒達のバックグラウンド(大学中退とか、平均点が90点以上で大検に合格しているとか、感性が豊かだとか、進学校として有名な学校を不登校しているとか)を消して彼らを眺めてみた。そして、自分のバカさ加減に唖然とした。自分がしっかり子供達を見ていなかったことに気がついたのだ。これではいくら素敵な生き方をしている素敵な方々に先生をお願いしても、ネコに小判。砂上の楼閣。基礎学力という土台をしっかり作っておかなければ、どんな物をその上に建ててもいつか崩れて元に戻ってしまう。

上田学園は暗記力を競う学校ではない。点数を競う学校でもない。自分の人生を自分で納得してつくれるように善悪の判断基準、選択力(選択する力と捨てる力)をきちんと持てるようになることだと思っている。そのために情報を収集する方法を学び、収集した情報を判断し、それをどう処理していくかを学び、それをどのように自分の言葉で人に理解してもらえるように発表するかを学ばなければいけない。それをする道具として、国語力と算数は必要だ。国語がしっかり出来れば英語は大丈夫だ。国語力がないものに英語は学べない。

悩んだ。どうやってこの事実を彼らに納得させるか、どうやって彼らを基礎学力の勉強からスタートさせるか、ずっと悩んだ。そんな悩みの中、3週間の海外旅行に出かけた。 その旅行の中で、何度も何度も生徒達と真正面からぶつかることがたくさん起った。その度に生徒達を理解したくても理解出来ないことだらけだった。そして出した結論は「理解出来ないことを理解出来ない!」と正直に彼らにぶつけることだった。

ぶつけるチャンスを狙った。そして、チャンスを見つけた。

何を直したらいいのか、何をしなければいけないと思っているのか、何を悩んでいるのか、まず自分のことを話した。そして言った「貴方達は一見利口そうに見えるし、利口そうに批判する。周りも貴方達を"利口だ"と信じて支持する。でも実際の貴方達は文句ばかり。文句を言うなら、それだから『どうすればいいのか?』という意見は全くない。行動もしない。問題が起きるとスタコラ逃げ出す。全く格好悪いし理解出来ない。それでいいと思っているの?」と。

それからの話し合いは本当に戦いのようだった。真剣勝負だった。生徒達一人一人が自分達に足りないものは、常識と国語力。国語力がないから人の話も正確に理解出来ない。たくさん本を読んでも内容が理解出来ていない。おまけに常識不足から人が「当然こんなことは知っているだろう」と思って話をしていることに如何に自分達がついていかれないか。自分が理解していないこと、話についていけないことを相手に知られたくないために、いつもその部分の話になると逃げ出していたことなど、意識的、無意識的にしていたことを話し合った。コミュニケーションがとれないことについても話し合った。単語の意味を違えて理解していることや、それから起る誤解についても。

そして、それを境に生徒達の話し方が変わっていった。行動をしようとしだした。周りの人にも心を配ろうとしだした。でも行動したことのない彼らはどうやって行動していい分からず戸惑っていた。どうやって周りの人に心を配っていいかわからず、ぎこちなかった。哀しそうだった。「いいサンプルを見せてあげなければ!」と思いながら、心が疲れた。

一人一人が本当に基礎から勉強をしなおさなければと痛感し「基礎学習」を取り入れることに最後の一人が同意したのは、秋学期の授業の準備でコンピュータの前に座っていた夜11時だった。「何していたんだ?クソ食らえ!・・・・、先生一からやり直します。教えて下さい。」と私の背中に向かってポッツリと言った。秋学期が始まる10日前だった。

最後の一人のその言葉を受けて、本格的に秋学期のスケジュール調整を開始。その合間をぬって、国語・算数の基礎学習を徹底的にやって大きな成果をあげている兵庫県の山口小学校の先生、陰山先生にお電話をして会いに行った。そして陰山先生の確固たる信念とエネルギッシュな行動力とその成果を見せていただき、心から納得。陰山先生の実践を上田学園に合うようにアレンジして取り入れることに決め、先生から頂いたご本を何回も読み直し、赤ペンで書き込みをしながら考えに考えた。そして秋学期が始まった。

基礎学習をすることに、生徒達にはまだまだ抵抗がある。思った以上に自分が出来ないと「別に漢字なんて書けなくても困らないから」と言って不貞腐される。不貞腐されながらでも彼らは少しずつ変化しだしている。

「おめでとうございます。貴方は今日から中学生です」。先生の言葉に「イエイ!」と歓声をあげる。

「上田学園」は受験学校でも、サポーター校でもない。ただ、授業で「この色に10%くらいの赤が入った物の方が好まれるかも知れませんね!」と言われて赤が10%入るとどんな色合いになるのか分からなければ、話が進んでいかない。情報を集めようとしても、その情報の漢字を飛ばし読みしていたら、正確な情報が入ってこない。そのための基礎学力なのだ。せめて小学校と中学校の読み・書き・そろばんは徹底させたいと考えている。それも、だらだら勉強することはない。短時間で学ばせたいと思う。一日も早く前に進ませたいと思う。“知らない世界”には楽しいことが沢山あるのだから。

私達は子供達が可愛い。大切だ。だから「上田学園」で単なる時間つぶしはして欲しくない。彼らの人生の時間は大切だから、大切なものは私達も大切にしていきたいと思っている。