●学園長のひとり言  

平成14年6月11日
*(毎週月曜日更新)

お金、出会い、ご縁!

上田学園が平成9年の10月に設立されて以来、どうなることかと心配し寝られないほど悩んできたが、お蔭様でそれぞれの生徒がそれぞれの思いで、それぞれの道を見つけて前進している。ある者はイギリスの映画の学校へ。ある者は大学に行き、無事卒業した者、在学中の者。ある者は「この人の下で働きたい」と言い、ある者は高校へ。

現在の上田学園は7名。全員が16歳から22歳までの男子。女性が入学してきたら、女性の目で見た面白い意見が言ってもらえるのではないか、という先生方の淡い思いとは裏腹に、今回は全員男子。おかげで、何のリサーチをしても何の話をしても、男子の意見。男性の意見なのだ。

それはそれでいいのではと思うのだが、この世の中には男と女しか居ないのだから、女性の目で見た意見が反映されないのはもったいないと思うのだ。しかしこれも今の学生の持っている不思議な"運命"かなと考えている。

上田学園が出来たのはほんの数年前だ。しかし、たったほんの数年前に出来たこの学校と、「縁がある人、ない人」色々な方が出たり入ったりした。そんなことを考えると、本当に出会いの不思議さ、ご縁があるかないかの"縁の不思議さ"を感じてしまう。

上田学園はご存知のようにフリースクールだ。フリースクールもこの5・6年で本当に変った。この5・6年でフリースクールが容認?されるようになり、フリースクールを取り巻く環境も変化してきている。しかし1部の方々、特に御自分のお子さんが不登校になったり、引きこもり傾向になったとたん、フリースクールは未だにフリースクールになってしまうのだ。不登校をしたり、怠けて一般の学生生活から落ちこぼれた人達が行く"駄目学校"になりさがるのだ。その"駄目学校"には勿論、子供を入れたくないのだ。それが例え子供にとって大切な場所で、一日早ければ一日早く確実に立ち直っていくと思われても、だ。

上田学園には、色々な状況の、色々な問題を持った方々が訪ねて下さり、その中には「体験入学」を希望される方もいる。

私は「体験入学」であろうと、入学を希望なさる方であろうと"ご縁"があって、例え一時間でも上田学園を訪ねて下さった方には、「何かを持って帰っていただきたい。」といつも願っている。ましてそれが、不登校等の理由で悩んでいる子供達の"心の痛み"や"つらさ"を考えると、尚更そう考えずにはいられないのだ。

上田学園設立当初は、子供達の問題を今以上に明確に理解していなかった。子供達の問題を「自分の好きなもの、好きな道をみつけたら元気になるだろう!」とか、「先生がもっと興味のあるように教えられれば、問題は解決出来るのではないか」と考えていた。

確かに私の考えは、ある意味間違いではなかった。しかし、実際の学生達の問題は、一見複雑、しかしもっと単純なものであり、やっかいなものだった。思いがけないものでもあった。

その一つが基礎学力不足と、応用力不足。それに加えて、親・学校・先生・塾などという名前のマネージャー達による"管理教育"の結果、自主的に物を考えられない子供達。優秀なマネージャーがいるために、自分の生きている世界しか見る必要のない、気働きの出来ない子供達。自分達が体験する前に、親・学校・先生・塾等が想定するシュミレーションの予想でのみ結論を出すことに慣れ親しんだ結果、実社会の体験を体験する前に「駄目だ!」と決め付けて行動を起こさない子供達。合格、不合格の二者択一しかない評価の中でずっと管理されてきた結果、成功しないことは「落伍者」と勝手に思い込み、実社会を必要以上に恐れ、拒否する子供達。親の学歴、地位を必要以上に過大評価し、親と同じ行動、15歳が55歳の親と同じ行動をしようとあせり、挫折し、親の期待に答えられないと、自分を責め、社会を拒否する子供達。そして、"愛情"という言葉でくるんだ親のエゴに翻弄させられる子供達。

こんな状況の中で、上田学園の子供達と出会えたことは不思議だ。こんな状況の中、上田学園に「来たい!」と考えてくれた子供達や「行かせたい!」と考えて下さった親達との「ご縁」の不思議を考えずにはいられない。

やっていること、教えている先生、内容、学校を終えたときの子供達の変化を考えたら絶対安い学校だと思うのだが、外からみた上田学園は、月謝は高い、学校は狭い、立派な学校というイメージからはほど遠い学校だ。

それにはこんな私の考えがある。
月謝が安いからと言って、簡単に学校から学校を転校して歩くことに慣れると、嫌なことがあるとすぐやめる癖もつくし、嫌なことから簡単に逃げる癖もつく。
そして、逃げている間の時間と、それにかかる無駄なお金を合計すると大変な額になるはずだ。上田学園に入った以上、そんな考えをやめさせる。そんな考えを簡単に実行させない。「払っただけしっかり勉強する」。と考えてくれたらいい。

現在の子供達は、どうでもいいことには散財する。本当に大切なところでお金を遣おうとしない。そんな彼らだから、しっかり払った以上のものを、しっかり持っていってもらいたいのだ。本当の意味で損をしないように。

嫌なこと、嫌いなこと、苦手なことを、いかに自分がやりやすいように変えたり、工夫したりすることが出来るような力を身につけ、自分の住み易い生活環境を自力で勝ち取る。その為に「工夫が出来る力をつける」。自分が自分らしく生きるために、自分らしく生きられる「自分づくりをする」。自分づくりには、自分をつくれる材料、すなわち知識、知恵、一般常識などの材料、その材料をストックするお手伝いをして下さる方として、年齢・性別に関係なく色々な分野で、ご自分の考えをしっかり持って、今を生き生きと生きている方々に"先生"をお願いした。

先日も、女子大を休学しているという学生さんが「体験入学」で来て下さった。上田学園では「体験入学」でも、お月謝を頂いている。それは、上田学園に在籍するその長さが例え1週間でも一ヶ月でも、他の生徒達と同じように授業は勿論だが、授業で使用する教材でも何でも一緒に購入したりするからだ。何しろ上田学園は教材も先生と生徒達が話し合い、考え自分達の管理するお金の中から買い求めるからだ。

彼女はなかなか綺麗なお嬢さんだった。性格もなかなかいい。ただちょっと自信がないのだ。彼女の言葉を借りれば、小さいとき「臭い!」「汚い!」と虐められた経験が、何かあるたびに出てきて、自信を喪失させるようだ。また、自分の思いとは違う大学に入学したことも要因しているようだ。大学に入る時点で彼女の成績で入学できる大学の中から選んだ大学を受験し、とりあえず大学生になることを選択したようだ。その所為か、大学で勉強していることも、あまり興味のあることではないようだ。

大学にもどりたくないと言う。学校に行かない日は、一応親の会社で手伝っていることになっているが、全く興味のないことを手伝わされているので、学校に来たくない理由として「会社に手伝いに行きますので!」と言って、学校を休む正当な理由にし、親もそれを「よし!」としているようだ。

上田学園に来たいと言い、しかし続けられるか心配だとも言った。そして、「会社に行く日なので」と月曜日と水曜日は休みますと言った。しかし、関係なく来られるときに来て、それ以外は「仕事ですから」と言って休んでいた。

しかしそんな状態ではあったが、来れば最初の10分位静かに何の表情も見せずに先生や他の生徒の話を聞いていたが、そのうち段々自分の意見を言い、笑い、本当に楽しそうにしていた。そして、授業が終わってからもグズグズと教室に残って、本を開いたり、「上田学園は不思議なところですね。初めてなんです。私が知らない人の間でこんなに話が出来るのは。きっとここの雰囲気が楽しいんだと思います。北海道から来ているあの学生なんか、本当に面白いですよね」等と私達に一生懸命話し掛けたりして、皆で他の学生の話をして爆笑し、それからやっと帰って行くという状況だった。

私達は彼女が上田学園に入学したら、以外と早くに元気になるだろうと予想した。他の学生達も「彼女、来たらいいのに。あんなにいい目をしていいものをたくさん持っているから、絶対変われるし、気持ちが楽になれるのにな。」と言っていた。でも、親御さん達の「大学卒業」という希望に逆らうことが出来ず、大学の月謝と上田学園の月謝は払えないということで、上田学園に来ないことになった。

「体験授業」の最後の日、彼女はいつものように授業の終わったクラスでグズグズと時間をつぶしていた。その横で、赤点で進級が難しいので数学を教えて欲しいということで、上田学園の学生2人が"高1数学10日間特訓授業"をおこない、無事2年に進級させていた都内にある私立高校2年生の親御さんから再度「上田学園の勉強から帰ってくると、顔つきがちがうんです。明るいんです。今度は英語と古文を教えて欲しいんですが」というお申し出をうけ、上田学園の学生に代わって英語と古文を教える日本語の先生達と打ち合わせをしているうちに、いつのまにか「さようなら!」も言わないで彼女は帰ってしまっていた。

彼女は今どうしているだろうか。今も「親の会社を手伝うので、行かれないんです」と何処かのフリースクールに電話をしているのだろうか。彼女のあの淋しそうな後ろ姿を思い出すと、悲しくなる。「上田学園にちょっと通っただけなのに、最近は色々な生き方があってもいいのかと思い、実践してみようかと思っているんですが…。」と言ってくれた彼女を思い出している。そして残念なことに上田学園と"ご縁"はなかったが、何処かのフリースクールと「ご縁がありますように!」と心から、彼女のために祈らずにはいられない。

出会いは不思議だ。ご縁も不思議だ。
お金がある、ない。時間がある、ない。家が近いか、近くないか。色々な要素がミックスされ、調和されたときにタイミングよく出会えると、大きな意味のある出会いになるのだろう。

上田学園の子供達との出会いは、本当に感謝している。そして、この不思議な出会いに助けられた学生同士の交流が、今また大きな意味を持とうとしている。この不思議な出会いに助けられ、石橋を鉄で叩いても、叩いても、渡ろうとしなかった学生が、無事にそれを渡って自分の人生をみつけにタイの大学に出発しようとしている。その様子を見ながら、本当に"ご縁があるかないかの不思議"を実感している。



 

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