●学園長のひとり言 |
平成14年11月19日 一月早いクリスマス! 「先生、なんとか大検のテスト終わりました」嬉しそうな声が電話の向こうから聞こえてきた。「風邪はどう?大丈夫?」「はい、大丈夫です」。答えの分らないところは鉛筆を転がすからと言っていた彼の言葉を思い出し、「鉛筆ころころとよく転がった?」「いえ、勘で答えました」と鼻声で答える彼に、なんだか分らないが「よかった、よかった」と、よかったを連呼してしまった。 彼は長い間学校に行かなかった。偶然のことから上田学園に入学してきて、来たとたんに「大検受ける?他の学生が受けるとかで貴方が上田学園に入学してくるかも知れないと言ったら、自分の申し込み書と一緒に『新しく入ってくるかもしれない彼にあげてもいいと思ってもらってきました』ともらって来てくれたんだけど」という私の言葉に「試験、受からなくてもいいですか?」と言って受験をすることを決めたのだ。 そして一ヶ月が経った。「朝起きると、上田学園とゴムか何かで結ばれてるのかと思いたくなるほど、バーンと飛んで学校に行っちゃいます」というお母様の言葉ではないが、ニコニコと学校に遅刻も休みもしないで通ってくる。そして、他の大検を受ける生徒に混じって大検に関係ない学生達に勉強を教えてもらいながら、準備していた。 「先生、コーヒー飲んで帰ってもいいですか?」と言いながら他の大検受験組の学生が帰って来た。そして無事何とか全科目を受験したとコーヒーを飲みながら報告してくれた。「英語と数学はじっくり1年かけて勉強していこうと思って、ナルたちに頼みました」とも言う。自分は何が理解出来、何が理解出来ないのかを知るということが一番のテストの目的だと考えている私は、彼の言葉を聞きながら、自分は何が出来ないかを意識した今の彼を合否に関係なく評価したいと思った。彼は無意識に英語と数学を勉強する目的、即ち出来ない、知らないということから、理解出来る、使えると言える状況にしたいと考え始めたのだ。 大検受験組が大検を受けていた土曜日。上田学園の授業の合間をぬって大検組を教えていた学生が「どうやったら英語の文法、分かりやすく教えられるかな・・・?」等と頭を抱えていた。そして、一生懸命英語の本をあさっていた。受験が終わっても今まで通り教えていくのだと言う。 人のために何かをしたり、気にして心配してあげるということを一番学んで欲しいと思っていた学生が、友達のために分りやすく工夫して教えようと考えている真剣な横顔は、なんだか一段と男前に見えた。 上田学園はこんな学生達の織り成す毎日で彩られていく。 静かになった夜。「オレ!」と書かれたカレンダーの日付の日には、高校生の学生が古文と英語を習いにやってくる。日本語教師養成コースの受講者がやってくる。日本語の先生が問題を持って質問にくる。不登校の親御さんが相談にみえる。その横で、ホームページを作ったり勉強の分らないところを友達に教えてもらうために居残りしている上田学園の学生が静かに座っている。 いつの頃からか、人がギューギュー詰めになって皆で仲良く押し合いへし合いしながら勉強するようになったら、大きな場所に引っ越したいと考えていた。それは思いかけないご縁とご好意で、ここの事務所を貸してくださったこのビルを建てた一番始めの大家さんにたいするご恩返しだと思っていたからだ。 賑やかなことが大好きで、誰でもが幸わせになっていくことを、まるで子供のような純粋な気持で、心から喜んで応援してくださる方だっただけに、淋しい事務所ではなく、淋しい学校ではなく、賑やかで「ここに来ると帰りたくなくなる」と言って下さるような事務所や学校にしたいと、ずっと願っていた。それが今実現している。まるで夢の中で想像した通りに、皆で楽しく押し合いへし合いしながら、国籍・性別・年齢・経験に全く関係なく、知識の種、成長する種、心配しあう種、反省する種、生きていくための知恵の種。色々な種をまるでクリスマスのサンタさんが良い子の家の煙突からプレゼントを配って歩くように、お互いに「素敵な種」を蒔きあっいながら、芽がでるように努力しあっている。 そんな私たちに上田学園のホームページを読んで感激してくださった方から、またまた素敵なプレゼントが贈られてきた。 上田学園から歩いて10分位の住宅街の入口の1軒屋。思い出のたくさんつまった家を貸して下さるというのだ。それもピアノとたくさんの辞書や本つきで。それだけでも嬉しく、感謝する言葉も出ないほど驚いている私たちに、学生達が使いやすいようにリフォームも応援してくださるというのだ。まるで私たちが一生懸命蒔きあっている、知識の種、成長の種、心配しあう種、反省する種、生きていくための知恵の種。色々な種をもっともっと蒔きあって、上手に芽を出しながら、人生の大切な時期を楽しくすごしなさいと応援してくださるようなお申し出なのだ。 当たり前の話だが予算が少なく、場所指定までしている上に、おまけに子供たちの出入りが多く、賑やかな上田学園になかなか場所を提供して下さる方は本当にいなかった。「もしかしたら・・・・?」と言ってくださる方も、不動産屋さんを通して、上田学園が普通の学校ではなくフリースクールなので心配しているという話が入ってきた。それでも私たちは「きっとどこかにあるよ、私たちに喜んで場所を貸してくださる方が」と言い、「世の中には例外がたくさんあるんだから」と話していた。それがある日突然、思った通り、夢に描いた通のお話がトコトコと歩いて上田学園にやって来たのだ。「キリィッシュを焼いて時々コーヒーを飲みに来る隣の大家さんに徹しますので」と言うコメントと一緒に。 友達に助けられ大検を受験した学生。それを助けていた学生。これからもいろいろなことがこの小さな空間の中で起こっていくだろう。どれもこれも自分たちのものだ。でもどれもこれも1人ではない色々な方たちの協力があってできることだ。いつか自分たちも人のために、幸福の種、仕事の種、思いやりの種、色々な種を一杯蒔いて、芽を出すお手伝いが出来る人間になれるよう力のある人間になれるよう努力していきたいと思う。 一ヶ月早いクリスマスプレゼント。この世知辛い世の中。人を信用したくなくなるような今、子供たちに「世の中にはいっぱい色々な人が住んでいるね。嬉しいね。頑張ろうね。」という気持にさせてくれたプレゼント。今週末からみんなでこのプレゼントのリボンと解いて、自分たちの未来のために、暖かい人の温もりをじっくり味わわせていただきながら、リフォームについての企画会議をすることを決めた。
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