●学園長のひとり言  

平成14年12月3日
*(毎週月曜日更新)

 二つの日曜日

師走に入って上田学園はとても忙しくなった。授業のこと。忘年会のこと。1月の海外研修旅行のこと。3月のタイ旅行のこと。そして、圧巻は年末に引越しを予定しているので、その引越しの話し合い。気がついたら「え、もう6時だよ!」とか「え、もう11時?」とか言う会話が「今日もまた宿題が終わらなかった!」というため息と一緒に飛び交っている。そんな中、忙しそうに動き回り、意見を交換し「腹減った!」と悲鳴をあげる学生達を引き連れて、日曜日に、1月から貸していただく家の片付けのお手伝いに出かけた。

ニコニコと迎えてくださる新しい大家さんと、便利屋さん。私たちは彼らに混じって片付けを手伝う。

テキパキと片付けていく便利やさんの隣で、不器用にのそのそと仕事をする学生。そんな学生に、「紐はこうやってかけるんだよ」と言って便利屋さんが縛り方を説明してくださる。その横で壊したダンボール箱をまとめたり、不燃物を袋に入れたりと忙しく動き回る学生。運ぼうと持ち上げた荷が解けて文句を言う学生。

チョット雨が降る中「これを取り壊せば広い自転車置き場になりますね」と言う大家さんのご好意で、古くなって錆びてしまった3つの倉庫を壊す。

手際よくネジをはずして、壊していく学生。その横で「何で壊れないんだろう?錆びているから無理だよ!」と文句言いながら、壊すのをあきらめようとする学生。その横で、取り壊した倉庫を黙々と運ぶ学生。そんな彼を見ながら「みかん食べない?」とミカンを手にウロウロする学生。

色々な行動をしながら、彼らなりの手伝い方で片付けを手伝う学生達の様子に、思わず苦笑しながら「文武両道」と言う言葉を思い出す。

授業はテキパキとやる学生が、外の仕事になると頭と体が一緒にならないような動きをする。一度も引っ越しや、片付けをしたことがないのだろう。経験のある学生とない学生の差は歴然としている。経験のある学生にホットする。何となく「君は1人で生きていけそうだね」と言いたくなるほどホットする。

知識も大切だが、身体を動かすこともしないといけないとつくづく思う。知識と同時に身体も動かしていないと、頭と身体が連動しないようだ。連動しないと応用する力が沸いてこないのではないかと思えるほど、不思議な動きをするのだ。

誰でもが身体を動かすというと「運動」を考えがちだが、「運動」だけではなく日常の動きも大切だ。日常の動きが普通に出来るようにしておかないといけない。金槌やドライバーの使い方。紐の結び方。箒でする掃除の仕方。本当に毎日の何気ない動きを当たり前に出来るようにしておかなければ、「夢見る夢男さん」で終わってしまうような気がする。

親は何でも出来る人間になって欲しいと願うが、その何でもとは英語であったり、コンピュータ操作であったりするが、家の仕事もいれた方がいいと思う。プロのような仕事が出来なくてもいいが、普通に何でも出来るようにさせるために、事ある毎に家での仕事を手伝わせるといいと思う。家の仕事は総合学習の最前線だからだ。

学生達は面白い。学校にいるとき、授業の最中、学校以外の場、親との場など等、本当に色々な表情や、色々な本音をはく。それを見たり聞いたり感じたりすることで、いつもと違った彼らを知り、反省させられたり、安心したり、時には尊敬したくなったりする。

つくづく思う。子供たちが学ぶ場は学校だけではないということを。先生とだけではないということを。学ぶ気持さえ持たせておけば、どんなところでも、どんな方からでも学べるということを。

つくづく思う。私は絶対色々な方たちに上田学園に出入りしていただこうと。それも、年齢、学歴、性別、国籍、職業に関係なく。そのためにも誰でもがホットして、ずっといたくなるような「学校であって学校じゃない不思議な場所」を新しいと引越し先でもキープしていくつもりだ。

たった二つの日曜日。その二日でまた違った学生達に会えた。また、上田学園の講師になってもらいたいと思える方たちにも会えた。これからも、チャンスを大いに利用して、学生達を外に引っ張り出していくつもりだ。本の中だけでなく、彼らが生きている彼らの周りの現実の世界に、素敵に生きるお手本のような方たちとの、素敵な出会いがたくさん巡って来るようにと願いながら。

バックナンバーはこちらからどうぞ