●学園長のひとり言  

平成14年12月26日
*(毎週火曜日更新)

2002年に感謝!

上田学園は只今引越しの準備でこの狭い事務所がごったがえしている。どこから手をつけていいのか、時々私の頭は真っ白になる。心を砕かなければいけないこと。お願いにいかなければならないこと。準備をしなければいけないこと。この1年を静かにじっくり思い返し反省したいと思うが、私の後ろで学生達がかけたCDから抑揚のない音楽がダラダラ流れ私の頭の中で、リズムにならないリズムをとる。お陰で何も考えられない。「ああ、くたびれた!」と声に出してみると、なんだかもっとくたびれた。

毎年「今年こそは、絶対26日くらいで休みにして、家の片付け、ペンキ塗り、掃除、そんなことを全部30日までにやって31日は本をゆっくり読んだり、テレビを見たりしよう」と誓うのだが、ここ何年間かは31日の午後、「あ〜綺麗だね・・・家の中がこんなに綺麗になってご苦労様!」という父の言葉に励まされるように、あたふたと家の片付けをしてお正月の買い物して、ホット一息つくと除夜の鐘というのが定例になっている。

小さいときは働いている両親に代わり、兄たちと手分けして掃除やペンキ塗り、漬物漬け、買い物と忙しくやっていたものだ。そして、1年の締めくくりの仕事をして帰宅する両親を待って「すき焼き」をしたものだ。「こんなに綺麗にしてくれて、どうもありがとう!」という両親の言葉を1年最後のプレゼントにしながら。

今年の暮は想像したくないほど、疲れそうだ。今はただお正月にゆっくり寝たいと考えているが、それもちょっと無理のようだ。それを考えるとまたちょっと疲れるが、でも今年最後の疲れ、頑張って"疲れよう"と考えている。

今年1年は本当に忙しい1年だった。でも興味のある1年だった。自分の至らなさ、人の心の温もり、そして生徒達の素晴らしさなど、改めて考えさせられると同時に「何て私は幸せな人間なのだろうか」と何度も何度も感謝せずにはいられないことばかりだった。

中学から学校に行かず、上田学園に実質4年いた学生は、何かあるたびに何回突き放しても人が変わったように「やります!」と言って私たちに喰い付いてきた。そしてタイの大学の講師として出かけて行った。「俺の感性がこんなくだらない勉強をしていたら潰される」と言って中学3年で学校に行かなくなった学生は、自分の出来ないことがあると格好よく逃げ回り、他人も親たちも、そして自分をも煙に巻いて「適当」に生きていた。そんな彼も自分のことを「恥ずかしい!」と言い、自分の道を歩みだした。

10月の秋学期。今年も大検を受験することを希望した学生3人に、ほかの学生が一ヶ月間、朝と放課後30分から1時間、勉強を見てあげ、一番小さい16歳の学生が全科目に合格。「自分はこれが一番苦手ですから、それで受験してみます」と言って苦手な科目に挑戦した学生二人は9科目中、勉強しなかった6科目に合格した。そなん彼らの努力と、人の為に一生懸命になってくれる他の学生ことがとても嬉しかった。

週に3回、自分たちより年上の外国人の学生達に日本語の教師として頼られるようになった彼らは、自分たちの行動にも、他の人に対しても責任をとれるようになり、宿題にも取り組みだした。そして「宿題が忙しくて寝る時間もない!」と嘆くようになった。

共同作業をすることに無責任になる学生に対し、自分の考えをぶつけ、徹底的に話し合う機会を自主的に持つようになり、その話し合いがなされる度に一人一人の心の中の他人に対する"わだかまり"が溶けてゆく様が見てとれ、一人一人の絆がすこしずつ結ばれていくのもわかった。それと同時に作業内容に関しては、いつの間にかブレーンストーミングをするようになっていった。

毎日毎日彼らの顔つきが変わり、あるときは、子供のときはこんな顔をしていたのではないだろうかと思われるような、穏やかないい顔をし、あるときは大人の顔になり、いい意味で他人に関心を持ち、人間として行動しようとしている。そんな彼らを、私たち教師たちは遠くに視点を置きながら、毎日の行動を応援した。そして、「肉体労働をすること」という夏休みの宿題をした学生が「この世界は仕事が出来ないと生き残れないのがよう分った。それなのに、俺は作業も満足に出来なかった」という感想を述べたとき、内心「やった!」と嬉しかった。

この1年は、子供達の成長だけでも大きい流れがあり、対外的にも大きな流れがあった1年だった。

「骨太の子育て」を出版していただいたお陰で、国公立の先生や私立学校の先生達に講演をさせて頂いたり、企業が応援する「子育」の取り組みの中で、大阪、京都、横浜、埼玉そして東京と、何回か講演をさせていただいた。そして先日(12月21日)NHK BSTのインターネットディベート(平成15年1月8日24:00から再放送)に出演させて頂いた。そしてそれらを通して色々な方たちにお話を伺い、またお話をさせて頂き、考えさせられ、反省させられることが多い1年だった。

上田学園は今、引越しの準備で足の踏み場もない。今日も学生達や色々なことで上田学園にいらして下さった方々がお手伝いに来て下さるという。その中には朝まで郵便局でアルバイトした学生もいる。来週シンガポールに帰国する日本語の学生もいる。週2回、古文と英語を習いにくる私立高校の学生もいる。そんな彼らが「先生、引越しても今みたいに何だか分からないけれど、居心地がよくて帰りたくなくなるようなホットした空間にしてくださいね」と言ってくれる。

今回引越しするところは、大家さんの御厚意で「ピアノ」つきだ。夜は小さなサロンコンサートをしたいと考えている。また、一テーブルだけ「上田学園ジュニア」も開校しようかと考えている。

今わたしの目の前には引っ越しにともなう色々な問題が山積みされ、その問題を考えていると眠れなくなることが多い。しかし不思議に、どんなに大変な問題があっても新しい学校に生徒がいっぱいになる様子が目に浮び、人数が少なすぎて出来なかったことが出来ると、嬉しくなる。その思いは生徒達も同じなのか、「先生、グループを三つくらいに分けて、こんなことをやりましょう!」等と生徒達の嬉しそうな声が引っ越し荷物の間を飛び交っている。


お陰様で、今年も1年間無事に過ぎようとしています。
素晴らしい上田学園の先生方と学生達の笑顔。そして皆様の支えがなければここまでこられなかったと思います。本当に心から感謝致します。

来年は新しい場所で、今以上に「学校であって学校じゃない不思議な場所」をつくってまいります。来年も上田学園を宜しくお願い致します。また来年も美味しいコーヒーと美味しい日本茶、それに子供達の笑い声で皆様をお待ちいたしております。吉祥寺にお越しの節は是非お遊びにいらして下さい。心から皆様のお越しをお待ちしております。

2003年が皆様にとっていい年でありますよう、心からお祈り申しあげます。
本当に1年間ありがとうございました。
                            

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