●学園長のひとり言 |
平成15年2月28日 新しい年と新しい校舎と子供達の笑顔 「楽しかったことは何も書かなくていい。嫌だったこと、不満、全部書き出すこと。それが宿題だ!」 そんな言葉で始まった今年はじめての伊藤先生の授業。「嫌だったことや不満を全部吐き出して、その原因をしっかり分析し、それを補えば次回からもっといい旅行になる。自分の準備不足か、お客様とのコミュニケーションのまずさなのか。その原因を把握し、補うこと、それがいい仕事につながる。いい評価は当たり前と思え。悪い評価をしっかり見つめる。それが大事なんだよ。」 先生の言葉を聞きながら「研修を兼ねた上田学園の海外旅行。いろいろなことがあったけれど、長い一ヶ月だったけれど、本当に行ってよかった!」と改めて思った。 伊藤先生のお客様達の用事で、ホテルや展示会場中を走り回る学生。地図を片手に目的地を一生懸命捜し歩く学生。セリフが多くて理解するのは難しいかと思ったミュージカルに「やっぱり英語くらいできたほうがいいな・・・」と呟きながら、身を乗り出して舞台を食い入るように見入っていた学生。率のいい両替屋で換金しようとして、貴重な時間だけが過ぎ、おまけにもの凄い手数料をとられ、ガックリする学生。教科書の中でよく見かけた絵の実物の前で感動して動けなくなる学生。裸の絵ばかりで「くたびれた!」とへたばる学生。アパート式ホテルで、美味しい食事を一生懸命作ってくれる学生。ロンドンシティー大学日本研修のお手伝いの時に知り合ったフランス人の学生の家に招かれ、彼女の心遣いに感激する学生。「どうしてこんな素敵なレイアウトが出来るのかな?こんな色のカーテンが、こんな雰囲気になるなんて・・」と感嘆する学生。戸惑い。恐れ。困惑。驚嘆。無関心。色々なことが毎日毎日起こった。 朝から晩まで注意された日も多々あった。叱られた日も多々あった。学生にとっては大変だったろう。しかし、そこには普段日本では見られない彼らの色々な顔があり、何気なく発する彼らの言葉の端々に、この旅行がいつか彼らの大きな財産の一つになるだろうと確信できることがたくさんあった。そして上田学園の問題点もたくさんつまっていた。同じように、この私自身の問題点もテンコ盛りにつまっていた。 帰国して一月。海外研修があったことが嘘のように思えるほど日々の生活に追われて時間が忙しく過ぎていく。しかし子供達だけは次のステップに向け確実に、素敵に変化をし始めている。 ある者は、憑き物が落ちたような素直な穏やかな顔になり、ある者は積極的になり、ある者は人間らしくなり、ある者は"怖さ"を知り、ある者はほんの少し自分を取り戻し、皆が明日に向かって歩みだした。そんな彼らを感じながら「海外に行って本当によかった!」と実感している。
「この荷物、あの小さな事務所のどこに入っていたのかしら?」と全員でため息をついたほどの荷物の山も、100冊近く頂いた辞書や本などとともに納まるべき場所に収まり、ピアノの調律も終わり、今年の11月には備え付ける予定の薪ストーブのデザインも大体決まり、後は細かい書類の整理と、生徒達が作ってくれる"自転車置き場"と"花壇"を残すだけまでこぎつけた。そしてお日様が燦燦と入る明るい教室に海外旅行で中断していた日本語クラスの外国人の学生達を迎え、「ワオ!」と感嘆する彼らの声を応援歌に、数週間を残すだけになった今学期の授業も、やっと正常に行われるようになってきている。 新しい春学期が始まる。それまでに学生達は自転車置き場を作り、もっと使いやすい学校に整備するという。そして私は今回の海外旅行で感じたことなどを考慮して4月からのカリキュラムの作成と先生方の時間調整に入る。上田学園の子供達が自分のペースで確実に前進しているのをもっと応援できるように、伊藤先生の言葉ではないが、問題のあるところ、不足している部分を反省し、しっかり補っていくつもりだ。 こんな素敵な家を貸して下さった大家さんや、「まあ、何ていいお子さん達なの。驚きました」という暖かいご感想を沿えて大きなケーキを差し入れて下さった大家さんのお母様にも「思い出のある大切なこの家を貸してよかった」と喜んでいただけるよう、世間のうわさに左右されることなく、子供にとって何が本当に大切かをしっかり考え、今以上に教育という人生の道具箱の道具を使いこなせるようになる「子供達の学校」をつくりあげていこうと考えている。そして在校生は勿論、卒業していった学生達にとっても、遠く祖国を離れて日本に来ている外国人の学生達にとっても、縁あって訪ねて下さった方々にとっても武蔵野市にあるこの小さな一軒家が「学校であって学校じゃない不思議な場所」であり、"陽だまり"のような暖かい空間で、いつまでも座っていたいと思って頂ける場所になることを願っている |