●学園長のひとり言  

平成15年6月24日*

(毎週火曜日)

 

愛する人は大切にね!

「先生それはひどいものですよ。高校の3年間で5回中絶したっていうんですよ。思わず『自分の身体は自分で守らないと駄目じゃないか。猿以下だよそんな生活は!』って言ってやったんですよ。まったく今の親も先生も駄目だね。女の子にちゃんと教育していないから。おまけに、その中絶を皆のカンパでするもんだから『おじさん、パンを買うお金がないのよ』って、商売にも影響するし、“印度のカレーパン”って書いていたら、『おじさん、シルシ度のカレーパンって何?』って高校3年生が聞くんだから嫌になっちゃうしね。本当に困ったもんですよ。私はそんな高校『ぶっつぶせ!』って言っているんですよ。一応県立ですから、県民の税金でやっている学校ですからね。そしたら先生が『誰にでも教育を受ける権利がある』って言うんですよ。教育は受けたい子供に受けさせる。それ以外は働かせたらいいんですよ。勉強を全くしないで『暇だ、暇だ!』って言いやがって、まじめに働いている者からしたら、学校にも先生にも生徒達にも腹が立って、パンを売るのをやめたんですよ」

ある県立高校でパンを売っていたという方が、私がフリースクールをしていると聞いて、話してくれた話だ。

子供達が大人になる過程で、色々な時期がある。その時期をきちんと通り越していない人間が、大人になって悪いことをするのではないかと、考えている。その時期をしっかり通り越せるようにサポートするのが大人の役目であり、学校の役目であると考えている。

スイスの日本人学校で私は小学校の1・2年担当教師だったが、1年の後半から2年生になると「先生のクラス、いよいよ反抗期ならぬ“肛門期”にはいりましたか」と男の先生が冗談を言うほど、“おしっこ”だ“うんち”だという話をし、おまけに必ずと言っていいほど「男と女のあそこはちがうんだぜ!」等と男の子達が言い出す。

「そんなこと言っちゃいけないんだよ!」「先生に言いつけるから!」などと、女の子達から非難されればされるほど、また先生達から「そんなこと言っちゃいけません!」と叱られれば叱られるほど、男の子達は張り切って、先生や大人の見ていない所で女の子から批判を浴びる言葉を連呼し、いわゆる“スカートめくり”をし、自分達を誇示していた。

私はある時期から「そんなこと言っちゃいけません!」と注意しないことにした。むしろ“反抗期”ならぬ“肛門期”がくると「ああ来た来た、大人になる第一歩が来た!」と内心喜ぶようにしてチャンスを捕らえ「へえ、男と女のあそこが違うんだ。先生は女だから知らなかった。ちょっと見せて!」と男の子達に言うようにした。

「え、先生エッチだな」と言う子供達に「どうして?おしっこやうんちが出なかったらお腹が痛くて大変だし、病気になっちゃうでしょう?」と言いながら、腸の働きや肝臓腎臓の働きなど、体について彼らの年齢で分かるだろうと思うことを話して聞かせ、最後に「だから勉強も大切だけど、トイレに行くことも大切なことなのよ」と締めくくるようにしていた。

そんな話から、子供達は何かを感じるのか「うちのお父さんとお母さん、愛し合っているからキスをするんだぜ!」等と言い出す子供や、「パパとママが愛し合ったから私が出来たんだって。だから、私は愛の子供なんだって」などと説明する子供もいた。そんなことをしているうちに、反抗期ならぬ“肛門期”がいつの間にか無事に通りすぎて行った。

あれから28年。当時の子供達はもう30代になり、私は6歳の子供達ではなく髭も生えてきた15歳から25歳の学生達を担当するようになっている。

上田学園の学生達は、自分の将来を模索し、色々な先生方について色々な材料をつかって、疑問を持ち、問題をみつけ、資料を集め、分析し、まとめ、発表をするなどしながら社会で一人で食べていくために、社会に出るまでに何をしなければいけなおのかを、色々なことを通して学んでいる。それと同時に、おしゃれにも目覚め、髪を染めたり、洋服にも気を使い、女の子に興味を持ち、タバコやお酒を飲みたがり、その行動は大人そのものだ。

私は彼らが何をしたがっても、それは彼らが大人になるために通る通過点で、したがる方が当たり前で、無いほうがおかしいし“怖い!”と、とらえている。だからガールフレンドが出来そうだというと嬉しくなって思わず「良かったね」って喜んであげる。でも女の子は大切にして絶対傷つけてはいけないとも話している。

昔と違い、体が発達し恋愛は自由で何をしてもいいと考えている子供達は、間違った知識と、正確に何が起こるのか理解できないままに、本能で行動することを“自由に行動している”と勘違いし、その結果も誤解のまま過ごしている。また、誰もその事実がどういう結果になるのかを、しっかり教えていない。それがどんな悲しい出来事になり、ある時は命にもかかわることを。

私は学生達にしっかり教えておきたいと考えている。それが大人になる通過点として起きるあらゆることに対する過剰な興味や反応から、健全な興味や反応として育つ方法だと思うからだ。

今、女の子達の間で色々な性病が流行っているという。それが、彼らの“家庭を持ちたい”と考えたときにどう影響するか、彼らが自分の将来を模索しているときだからこそ、この点に関してもしっかり教えておきたいと考えているし、考えさせたいとも考えている。

人間としてこの世で生きていくとき、女の子の世界でおきている問題は、女の子だけが悪いのではなく、男の子にも責任があり、男の子の世界でおきている問題は、男の子だけが悪いのではなく、女の子にも責任があることをしっかり自覚することで、お互いが人間として尊敬し、大切に思うことがどんなに重要なことかをしっかり理解し欲しい。

そのためにも、 上田学園の学生達 には、自分のことだけを考える人間ではなく、自分の周りの人間をも“いとおしむ”、そんな心ねの優しい人間に育ってくれたらいいと日々願いながら、彼らと真正面から向き合って試行錯誤しているところだ。

 

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