●学園長のひとり言  

平成15年7月10日*

(毎週火曜日)

人に助けられて

タイから学生達が元気に戻って来た。いろいろなことがあり「随分大人になった気がします!」と自分達で言っている。疲れた顔の中に、満足した表情が覗いている。“行かせてよかった”という思いで迎える私達の声が弾み、「お帰りなさい!タイに行ってよかったね。チャンタナ先生にお目にかかれた?他の先生達は元気だった?金谷先輩は?」と質問をしながら学生達の間をウロウロしてしまった。

走りに走って11年。父が亡くなった日から体調を崩し,なかなか元に戻らない。疲労と睡眠不足とストレスから来ているようだ。友人知人から散々注意されてはいたが、それでも皆さんに助けられて動いている会社「頑張らなければ」と、走らずにいられなかった。「おやすみなさい!」と言ったとたん、寝息をかき朝まで一度も起きることがなく眠り込むような私が、昼夜逆転していた父の看病で眠れない日が2・3年続いたことも、体調を崩す原因になったようだ。

人に迷惑をかけることが嫌で頑張ってしまったが、チョッとのあいだ先生をはじめ色々な方にご迷惑をお掛けすることに目をつぶらせて頂き、今は体調を戻すことと、母と一緒に食事をするためにどんなに遅くても夜は7時頃には学校を出るようにしている。日曜日も休ませて頂き、のんびりと一日中を過ごすように心がけている。それでも夜は9時半ころには眠たくて眠たくて目が明けていられない位に眠たくなる日があり、10時ころには布団に入ることが多い。「もう少ししたいけど、頭が回転しないからもう止めよう!」と思いながら仕事が終え、「あら?もう10時過ぎてるわ!」等と時計を見ながら帰る準備をしていたころが嘘のようだ。

体調が悪いのは嫌だが、今はこの状態に感謝している。こんな事がなければ色々なことを考えていても、その考えを実践するより毎日の雑事に追われて、未だにただただ走り続けていたと思う。今は「父がくれたプレゼント」と考え、次のステップに移行する前の“休暇”と考えている。

上田学園は色々な方に助けられ、色々な方達に応援して頂いて前進している。その前進の仕方が生半可ではないし、その生半可ではない前進は色々な方々が差し伸べて下さる“心”に反応した生徒達一人一人の努力と、変化がそうさせているのだろう。

1年前の生徒。半年前の生徒。一ヶ月前の生徒。一週間前の生徒。そして昨日の生徒。彼らの変化は毎日見ている私達にとっても目を見張りたくなるほど「同じ生徒?」と聞きたくなることがある。それに合わせるように上田学園自体も変化をし、成長している。

平成9年に上田学園を創ったとき「こうゆう学校にしたい!」という大きな夢があり、色々なことを想定し、計画し、開校したのだが、実際に学校が動き出して実感した現実の子供達は、私達大人との間に大きなギャップがあり、そのギャップを私も含めて、親も教育者も社会も理解していないということだった。おまけに、そのギャップの元が何なのかもよく見えなかった。

学校の方針が間違っているのかと悩み「夢は単なる夢で終わるのかな?」と心配したときもあった。しかし、一人一人の子供達の言葉にならない言葉で発して来る底知れない未来への可能性と、職員会議で話される各先生方の子供達に対する考え方や思い。各先生方の“生きる姿勢”と“人間的魅力”。何度この職員会議を親御さんや教育関係者にモニターしてもらいたいと思ったことか。

教育専門家でも何でもない一般社会人である上田学園の先生方。その世界で真摯に仕事をし、認められている人間は、専門外でもきちんと判断し、考える力があることをまざまざと見せてくれていた。それが、どんなに迷ってもどんなに苦しんでも「この方針は上田学園の子供達にとって間違いではない!」という自信にしてくれた。

タイから帰国した学生達。ある者は、学生の言葉を借りれば「メチャ、充実感があった」であり、ある者にとっては「チョッと自信をなくなったかな?」になり、ある者にとっては「もう少しちゃんとしなければ!」と思い、ある者には単純に「楽しかった!」ようだ。

どれもこれも“大正解”。タイの方や先輩の金谷君やタイの大学関係者や色々な方々から助けられて、色々な感情や色々な考え方等、色々なことを学んで来られたのだ。

学生達の今は学生達が一人で生きて行く過程に起きる出来事の一つにすぎない。人生最後の結果ではない。上田学園に在学中にたくさん頭をぶつけ、挫折を味わい、そこから生還する。それをしっかり彼らの細胞の中にインプットして欲しいと考えている私にとっては、学生達の結果は嬉しい出来事であり、上田学園の方針から考えても、踊り出したくなるくらい“大正解”なのだ。

上田学園のお隣に住む大家さんが時々感心したように「不思議ですね、この上田学園は。1週間どころか2日位でも学生さん達の顔を見ないと、学生さん達がものすごく良い方に変化しているのに気付かされて、驚かされます」とおっしゃって下さる。その言葉を聞くたびに1年前、半年前、一月前に上田学園を見学に見えた方々は、学生達の変化にもっと驚かれて「うちの子供には無理ですよね、ここで勉強するのは?」と前回以上に迷われるだろうと、変な心配をしてしまうほど大家さんの言葉が事実なのだ。

私も上田学園の生徒達も色々な方々にご迷惑をおかけしながら、今日を反省し、明日につながるようにと悪戦苦闘中だ。それがどういう結果になるかは分からないが、きっといつか「あのとき迷惑をかけられたけれど、お手伝いして無駄ではなかったですね」と、心から喜んでいただけるように、ただそれだけを願いながら。

 

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