●学園長のひとり言  

平成15年9月9日*

(毎週火曜日)

気持ちのいい朝、幸福の予感

 

残暑がほんの少し厳しいこのごろ、それでも朝晩はもう秋の気配。この上田学園の裏庭の草花も何となく秋を思わせるものが多くなった。そんな草花を朝の掃除が終わったあと、まだ夏休み気分でゆったりした雰囲気の教室に飾るため摘む。

京都のお土産にシーシーが買って来てくれた竹の籠に裏庭の野の花を活ける。野の花と竹の籠。コーヒー豆の樽を利用して学生達が作ってくれたテーブルに良く似合う。

ジャマイカからのコーヒー豆の樽。京都の竹篭。そして上田学園の裏庭の草花。何気ない組むあわせが、心をなごませてくれる。そして昨日の学生達との会話がBGMのように頭の中で心地よく、くりかえされる。

「身体の調子が悪い悪いと言って・・・・、飲酒運転の車にぶつけられたんです。長生きしないんじゃないかと思って・・・・、『俺が恩返しするまで元気でいろ!』って言ったんです」

福島から1日だけ戻って来たダイちゃんが飲酒運転の車にぶつけられたお母さんの身体を心配して、持っていた団扇でテーブルをポンポン叩きながら話す心配そうな顔。ダイちゃんの前を歩いているご両親の後ろ姿が「小さく見えた」と彼のホームページが彼の心の痛みを代弁する。

お母様のことは心配だが、ダイちゃんの優しさに心が和む。つっぱりながら今日も彼は確実に成長しているのが分かり、嬉しくなる。

おだかマンが香港から戻り、ほんの少しおだかマンに似た小さな中国のお人形達が、ピアノの上や植木の陰から色々な動作と表情で私達の目を楽しませてくれだした。

おだかマン初の海外一人旅。短い一人旅だったけれど、彼の人生をつくり上げる重要な毎日の何気ない一日として、きっと貴重な一日になるだろう。

「仕事の内容と、時間数の長さ。考えると本当に安いアルバイトです。でもそれを30歳になってもやっている人がいるので、あれは『やばい!』と思いました」

引越しのアルバイトで荒れた手を見せながら、一生懸命仕事の話をする。そして予算よりオーバーしたけれど欲しかったデジカメを買ったと、誇らしそうにそして、嬉しそうにそれも見せるシーシー。

仕事がきつかったのだろう、スリムになっていた。でもスッキリと一段と男前にもなっていた。

「学童保育は大変な仕事です。終わって今はちょっと放心状態です」といいながら、学童保育での色々なエピソードを話すヒロポンの顔は、幼顔の中に時々真面目な大人の顔を覗かせる。

それでなくても何事にも真面目で一生懸命な彼のこと、きっとお子さんをお預かりする仕事というので、いつもよりもっと緊張し、頑張ったのだろう。夏休み前より少しきりっとした彼の顔を見ながら「社会が子供を育てる」という意味を改めて考えさせられた。

「仮免、落っこちた」とボソッと一言。何でもないように振舞う成ちぇりん。でも、結構今は落ち込んでいるようだ。夏休み中に車の免許が取れないかもしれないと心配しているようだ。

一生懸命やれば、何でも思い通りになるし、何でも許されると思うのが若さの特権。一生懸命やっても、そうそう思い通りにはならないということを体験し、知って、「確実」とか「安全」とかにしがみつこうとして、二の足を踏むのはおじさん、おばさんの特権。

色々なことを、色々な体験を通して学んでいくのは、人間の特権。成ちぇりんは今、自動車教習所で色々なことを学んでいる。落ち込むの大いに結構。行動して落ち込むのは身になるし、財産になる。しかし行動抜きの頭の中だけのシュミレーションで終わると、それは「時間がもったいない!」の一言。

シュミレーションには匂いも、音も、感じることも、五感に訴えかけられることはないが、行動には体験という「五感」で感じ取るものがあり、それが大きな味方になり、大きな知恵になる。

明日から沖縄に帰ってくるというチーチー。沖縄に帰る前に夏休みの宿題を全部しあげるといい、毎日宿題と格闘している。

去年の彼だったら、とっくに音をあげていただろうが、今年の彼は断然違う。何が自分に足りないのか分かってきている今、どんな問題にも音をあげなくなってきている。一生懸命解決しようと努力する。「ロンドンから先生がお戻りになるまでに、色々手分けして調べておこうよ!」と他の学生に呼びかける。頼もしい限りだ。

ベトナム戦争ではレスキュー隊の一員としてジャングルに潜み、負傷兵の救出に当たっていたというアメリカ国籍の写真家であり、武道家であり、何がお仕事かわからないくらい色々な業界で活躍している先生と一緒に、学生達はサバイバルキャンプをするため「時間は?」「何を持って行ったらいいですか?」などと、夢中で話し合う。

2年目のサバイバルクラス。今年の打ち合わせが終わり、何となく生徒たちのテンションが上がっている中、「寝坊して遅れた!」と言いながら久しぶりにダイちゃんが顔を出す。

一足違いでサバイバルの先生がお帰りになったことを知って、何となくふてくされ、がっかりしているダイちゃんを尻目に、学生達のテンションは最高潮へ。

厳しい言葉。優しいことば。面白いことば。お説教。笑い声等など、静かな夏休みがなかったように賑やかな上田学園。

上田学園の学生達の一人一人は名もない草花のようだが、一人一人をよく見ると、それぞれが何とも味のある形や、色や蕾をつけて個性的だ。そしてもっとよく見ると、なんとも愛らしくその上、目が離せなくなるほど大きな可能性と未来をたくさん持っている。

気持ちのいい朝。幸福な一日が始まりそうな予感と、朝のコーヒーの香りに包まれながら、上田学園の裏庭で摘んだまるで上田学園の学生達のような草花に「どんな花に化けるの?楽しみだな。私もガンバラナクチャ!」とつぶやきながら、こんなところダイちゃんに見られたら「先生マズイッス!」と言われるだろうと、一生懸命笑いをこらえている。

 

 

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