●学園長のひとり言  

平成15年9月16日*

(毎週火曜日)

子供達を愛でながら観察してみよう! 

 

「ドキドキして、自分が惨めで逃げ帰ってきました。本当に皆さんは優秀ですね。フリースクールなので、あんなに優秀な方ばかりが集まっていると思いませんでした。家の子は上田学園にお願いしても、きっとついていけませんわ」

中学生の後半から不登校になり、現在20歳になるお子さんをお持ちのお母様が私と話をした後、上田学園の子供達と話をし、授業を見学し、上田学園をご紹介くださった上田学園卒業生の親御さんに、「見学報告」として述べたご感想だ。そしてその親御さんはとてもがっかりした声でこう報告を続けたそうだ。

「本当に10月から、上田学園に子供をお願いしたかったんですが・・・・、家の子供には無理だと思います。だらしないし、昼夜逆転しているし、わがままですし・・・・。上田学園が最後の頼みだったのですのに・・・・」と。

夏休みに入る寸前に見学に見えた方のことだろうなと、電話でご報告くださる卒業生の親御さんの声の遠くに、遠慮がちに生徒たちと話をしていたやさしそうな親御さんの横顔を思いだしながら、どうして大切なお子さんのことを「どうせ」と言って突き放すのかなと考えてしまった。

上田学園の子供達は「発展途上人」。現在も発展している最中だ。だから毎日毎日変化し、毎日毎日なんだか分からないけれども、素敵に成長しているのだろう。そんな学生達に私は誇りにも似た気持ちを抱いている。でも、初めは皆同じ。見学に見えた方のお子さんとまったく同じだったのだ。

「学園長のひとり言」に私はよく学生達のことを書く。それも「本当に毎日確実に成長しているので嬉しい!」というよなことを連呼している。その連呼に対して不満を述べる方もいる。「本当にそうでしょうか。他のお子さんはそうかもしれませんが、当方の子供は全然進歩していなくて、いらいらするときがございます」と。

正直私も「素敵に、確実に成長していて嬉しい!」と書きすぎかなと思うこともあるが、色々悪い面に目をむけても、やっぱり最後は「なんて素敵な学生たちなのだろう」と心から思えるので、毎回同じ言葉を書き連ねてしまう。そしてまた、毎回どうして子供達をとりまいている大人たちが、こんなに素敵に成長している子供達に気が付かないのかと、それが不思議に思えてくる。

未来を持った子供達は、どの子達も同じように素敵なはずだし、素敵ななると信じられるので「授業の見学と、実際にお子さん達とお話させて頂いてよろしいでしょうか?」というお申し出があると、「こんな素敵な子供達、是非話してみてください。貴方のお子様もこうなりますよ!」と心の中でつぶやきながら、「是非どうぞ!」と、嬉々としてお受けしているのだ。

上田学園の学生達が素敵で、自分の子供があまりにも劣っているので親とし自分が惨めに思え、胸がドキドキしてクラスに座っているのがつらかったというお話には、こちらが落ち込んだ。

学生達はそれぞれ違った背景をもって、異なった理由で上田学園に入学してくるが、それぞれ違って見える学生達も良く観察すると入学してきた当初は、どの子もそんなに変わりはない。しかし1日より2日、2日より3日と、上田学園の在学期間が延びていくと、それだけ本来の彼らが表に現れ、素敵な彼らの素敵な部分が大きく表面に浮き出てくるようだ。そんな彼らを私は楽しく観察しているのだが。

学生達が毎日変化するのは、学生達の努力だ。色々な職業の色々な生き方をしている先生から、色々な授業を通して色々なことに刺激を受け、そして考え、悩み反省し、進歩し、昨日より今日、今日より明日と変化を続けているのだから。

彼らの変化はときには、びっくりするほど大きな変化をすることもあるが、殆どが亀のような歩みの中で変化をするし、またあるときは亀の歩みどころの変化ではなく、本当にがっかりするくらい遅いときもある。それでも変化をすることは、動いているという証拠で重要なことなのだ。だから私は、どんなささいなことでも見逃さないようにしっかり観察し、大喜びするのだ。それも、昨日の彼とどう変化したかをだ。

上田学園を訪ねてくださるご父兄は、ほんの数年前までは「上田学園を卒業したとき、資格がとれるのでしたら是非いれたいのですが」という親御さんか、「大検のサポートをしていただけるのなら入学させたいのですが」という親御さんが多かたのだが、今は上田学園の学生達が「素晴らしい!」と感激してお子さんを入学させたがる親御さんか、「家の子供は絶対ついていかれないですよね」と恐れをなし、お子さんと検討するまえに結論を出してしまう親御さんの、どちらかになってきたように思う。

上田学園の授業を体験していただくのも、在校生と話していただくのも、親御さんにとっても、在校生にとってもいいことだと積極的に許可してきたことだが、胸がドキドキするほど御自分のお子さんが劣っていると思い、惨めなお気持ちになるのでは、少し考えたほうがいいかと思ってしまう。

子供の可能性を否定する言葉を親御さんから伺うと、20年かそこらしか生きてきていない子供に対し、「どうせ」と断定して欲しくないと思う。もう少し信じてあげて欲しいと思う。もっと両目をあけてしっかり子供を見て欲しいと思う。観察して欲しいと思う。そして小さいことから大喜びしてあげて欲しいと思う。

もっと子供達を愛でて欲しい。じっくり子供達を見て欲しい。何も出来ない人間にたいし、50年近く生きてきた人間と同じ結果を今すぐ出すことなど、要求しないで欲しい。そして本当に子供達の成長を喜んであげたい。「どうせ家の子供なんてダメですよね!」なんて言わないで、ほんの少しの成長も見逃さず応援してあげられるように。

もう一度、御自分のお子さんを見て欲しい。大きな未来と可能性をたくさんもった素敵なお子さんを。

親より断然長生きするという、親がどうあがいても延ばすことの出来ない「命の長さ」。即ち将来をもった子供達を誇りに思って欲しい。

どんな高価な化粧品やワインを飲んでも親達にはキープ出来ない「若さ」。その若さが親達の時代には出来なかった不可能を可能にしてしまうかもしれないという現実。それだけでも、私達大人が彼らに対し、彼らが生きていくことを愛でてあげ、応援してあげたいと思う。

親は自分の生きているレールの上に彼らを載せることを考えるより、彼らが自分で自分の納得した人生を送るためのレールがひけるよう、彼らの毎日をしっかり観察し、楽しみ、喜び、親の知恵と大人の知恵をカクテルにして応援する。即ち子供達に応えて、励まし、そして一人で歩けるように突き放して欲しいと願っている。

秋学期の準備を開始したが、上田学園も今まで以上に学生達に何をしなければいけないのか、何が学生達に必要なことなのか。社会が、日本が、大きな変化で揺れそうなこれからの時代、どんな状況になっても一人で生きていける人間の基礎をつくるために、この5年間で学生達が私達に教えてくれたものをしっかり咀嚼しながら、それを授業にどう反映させようかと考えながら、時間割を組んでいるところだ。

 

 

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