●学園長のひとり言  

平成15年10月28日*

(毎週火曜日)

可愛いのは、自分の子供だけ?

「おばさん、赤ちゃん貸してください!」学校から帰るとランドセルを放り投げて、一目散に隣近所の赤ちゃんのいる家をめがけて飛んで行った私の、小学校を卒業するときの将来の夢は「孤児院の先生」。

大学時代、絶対お金儲けをして作りたかったのが、養老院と孤児院を一つにした施設。当時ブラジルで成功した日本人の移民の方々が日本でお嫁さんを募集、写真花嫁がたくさんブラジルに渡って行った時代。そこに目をつけた私はお金儲けをブラジルでと考え、ブラジルに結婚式場付きホテルを建て、その儲けで長野県辺りの景色のいい場所に広大な土地を買い、長年の夢である養老院と孤児院が一つになった施設を作ろうと、その夢の実現にむけ、アルバイトでお金が溜まると、喫茶店の学校に行ったり、バーテンダースクールに行ったり、着付けの学校に行ったりと、ホテルを開業するときに知っておいたほうがいいと思うものを勝手に想像して、手当たり次第習いに行ったものだ。

あれから37年。ひょんなご縁で日本語教育者として13年近く海外で仕事をし、ひょんなご縁で子供の教育にも携わるようになった今の私。昔の夢も今の仕事も人間が大好きで、子供が大好きな私にとっては、最高に幸せな職業。苦しいことも多いが、それでも「ガンバラナクチャ!」と叱咤激励しながら頑張れるのは、本当に生徒たちが可愛いからだろう。

毎日毎日新聞には、子供を折檻して死なせたり、事故で死なせたり、と悲しい子供のニュースばかりが氾濫する。それも子供が加害者になり被害者になるという今までにはないような事件で。

今回も4歳の子供が29歳の母親の18歳になる高校生のボーイフレンドに折檻されて、生を受けてからたった4年間で人生を終えるという、悲しい出来事が起こっている。

言っても詮方ないが、何とかならなかったのだろうか。4歳の子供の周りにいた大人達は、きっと出していただろう彼のSOSが聞こえなかったのだろうか。

子供の人生を奪うのなら子供を捨てて欲しいと考えるのは、間違いだろうか。何とか世の中で育てた方が、子供にとっていいのではないだろうかと考えるのは、間違いだろうか。

昔の人たちは、子供は授かり者と考えていたと聞く。お預かりした子供が無事に成長して世の中にお返しできるようになるまで、お預かりした子供をしっかり責任を持って育てる。それが親の責任だと思われていた。現在は、子供は自分のもの。自分の好きなように育てて、どこが悪いと言われてしまう。

子供は親のものではない。苦労することが想像できる状況の中、選択権のない子供の意思を無視して、自分が好きだからと不倫相手の子供を産む。それを非難されると「他人に迷惑をかけていないのだから、好きな人の子供を産んでどこが悪い!」と、反論する。

「自分の時間が子供に奪われて、自由がなくなった。遊べない!」と、育てられなくなると“子育て”を放棄する。子供が自分の思う通りにならないと「こんなはずじゃなかった」と、虐待する。

昔、有名な評論家がテレビを見すぎる日本人を評して「一億総白痴」と言ったように記憶しているが、今の親は自分の子供を愛玩動物のように扱い、一人の大人としても、一人の親としても成長しきれていない「一億総未熟児」のような親のように思えてならない。

代理母の問題もふくめて、21世紀に生きる私達は、家とか血筋とかという狭い了見ではなく、人の子供も自分の子供も“大切な子供達”と考え、皆で出来ることで子育てのお手伝いをしながら、世の中で育てるというシステムが出来ないものかと考えてしまう。

親の名誉と親の期待に答えようと、一生懸命「いい子供」を演じ、演じきれなくなって心が擦り切れる子供達。親の東大病を満足させるために、頑張りに頑張りすぎて、身体も心も病む子供達。そんな屈折したものが引き金になって、犯罪の加害者にも被害者にもなる子供達。そんな子供達を追い詰めたのは、親だけではない。私達彼らを取り巻く大人達なのだ。

親を責めることよりも、子供のために、出来ることから始めたい。
子育てに奔走している方をみたら、ちょっと声をかけてあげよう。休み時間が取れないお母さん達に、近所にいる時間のある方々が、1時間でいい、お母さんがお茶を飲める時間を作ってあげよう。お惣菜のお裾分けでもいい。買い物のお手伝いでもいい。忙しい子育てのときは、お料理の時間も大変だろう。そして、子育ての先輩達は子育て経験談を聞かせ、自信を持ってアドバイスをしてあげよう。どんなに時代が変わっても、いいことはいいことであり、正しいことは正しいのだから。

子育てをしている親御さん達、皆さんの子供達は皆さんの所有物ではありません。大切な大切な皆の子供達です。皆さんと一緒に大切に可愛がらせてください。困ったことがあったり、辛いことがあったら、その困ったことや辛いことを周りにいる皆に分けてください。きっといい知恵が出て、皆で答えが見つけられると思います。

私達の人生が一回しかないように、子供達の人生も一回しかありません。それを絶対忘れないで下さい。そして私達隣人にとって、皆さんのお子さんが可愛いように、皆さんのことも大切な隣人だと思っていることを。

 

 

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