●学園長のひとり言  

平成16年1月27日*

(毎週火曜日)

嬉しい春


ホームページを読んで下さる皆様、遅くなりましたが新年のご挨拶をさせて頂きます。

          明けましておめでとうございます。
            昨年は本当に色々お世話になりました。

              今年もまた色々ご迷惑をおかけすると思いますが、
                どうぞ宜しくお願い致します。 

13日から20日まで、授業の一環の「添乗員のアシスタント」として宍戸、知花、成瀬の3人で伊藤先生や先生の会社の方々に混じってフランクフルトとロンドンで、200名近いお客様のお世話をさせて頂いて戻って参りました。

今年は新年早々学生達が風邪をひき、それが珍しく宍戸と私にうつり、同日に仲良く高熱を出し、宍戸は点滴でなんとか出発に間に合せ、私は出発する2日前まで熱のため起きられず、打ち合わせも準備も何も出来ないまま「ご迷惑をかけると悪いからキャンセルしようかしら?」と考えながらも、キャンセルすることが出来ずに飛行場へ。

飛行場は毎年のごとくたくさんのお客様。
旅行担当の伊藤先生は100名近いお客様をお連れして第一陣としてすでに2日前にドイツへ出発。当日出発の70名のお客様を今年初めて「展示会」を担当することになった伊藤先生の会社の新担当者をサポートして、学生達がチェックインカウンターの中や外を走り回り始める。

大きな会社、小さな会社、個人商店等など、日本中から乗り継いでいらっしゃるお客様も含め、お客様の条件は全てバラバラ。授業の中で伊藤先生に注意されていたこと等を思い出しながら、各お客様の条件を頭に叩き込んでいく。

時間が経つとともにあわただしさを増し、おもちゃ箱をひっくり返したようにごった返す中、順番を待つお客様に向かって「昨年お目にかかった宍戸です、今年も担当させて頂きます。宜しく!」等とご挨拶し、お客さまのご質問にお答えしたりする宍戸にリードされるかのように、成瀬と知花が緊張した面持ちで航空チケットを配ったり、カウンターにご案内したり荷物にリボンをつけたりと、大活躍。そんな彼らの様子に後押しされるように、熱があることも頭痛がすることも忘れ夢中で彼らの手伝いをし、無事フランクフルトへ。

フランクフルトでは、5つのホテルに分散して宿泊。生徒達は各自バラバラにお客様を展示会場にご案内したり、飛行場にお見送りしたり、他の国から入国して来たお客様をお迎えに行ったり、美味しいレストランや買い物情報を調べてお客様にお伝えしたり、添乗員の方々が泊っているホテルに打ち合わせや報告に行ったりと、早朝から夜遅くまで路面電車・地下鉄・タクシー等を使ってフランクフルト中を一日中クルクルクルクルと走り回る。そして17日早朝、私は知花に見送られてお客様の数名をパリにご案内。

パリのホテルで待機していた伊藤先生と共にお客様のチックインを見届けてすぐその足で、パリからロンドンに入る別のお客様数名をロンドンにご案内。その間、フランクフルトに残った学生達は手分けしてヨーロッパ中を移動するお客様を飛行場まで何度もお見送りし、最後にフランクフルトから直接お帰りになる70名のお客様達を新担当者のアシストしてお見送り。そのまま3人でロンドンへ。

「大丈夫かな?」と心配して待つ私のホテルに、真夜中の12時に無事チェックイン。ロンドン滞在のお客様の情報を交換し、全員が自分の部屋に引き上げたのは1時をとっくに過ぎた頃。

朝7時。ロンドンのホテルに宿泊のお客様を食堂でお迎えし、その日の打ち合わせ。そして朝食後宍戸と私はお客様数名をエンジントラブルのため2時間で行けるロンドン郊外の展示会場へ列車とバスを乗り継いで5時間かけてご案内。知花と成瀬はフリーマーケットへ。そしてその夜はお客様のお一人がお誕生日だということが分かり、急遽知花と成瀬に連絡し合流。お客様達と成瀬がリザーブしておいてくれたソーホーの中華街へ。

ヨーロッパ最後の朝。9時にお客様のチェックアウトに立会い、再集合の3時まで買い物に出かける方々をお見送りし、やっと私達のフリータイム。全員でユニバーシティーコンサルタンツの佐藤先生を、先生の事務所にお訪ねする。

別名「ロンドンの吉本興業」と上田学園で呼ばれている佐藤先生の事務所のベルを鳴らしたときの、なんともホットした気持。

突然の訪問に「どうしたんだ?」と驚く先生に迎えられ、先生の学生時代の話、お父様の話、教育の話などを佐藤先生独特の表現と、学生達を大切に思って下さる暖かい思いやりあふれた、しかし辛口でストレートな本音の意見は、1週間苦労してお客様のお世話をさせて頂いた経験が、今までとは違う何かを感じ考えさせてくれたようで、先生にお目にかかったときの定番通り、お腹をかかえて大笑いする中にも今まで以上に先生に信頼をよせる様子と、何かをしてきたという自信で輝いている学生達の顔。

今年はパリとフランクフルトの展示会の日程が違う上に、お客さまの出入りが激しく、そのお世話で学生達にまで手が回らない為、「今回の実習はキャンセル」と言う先生の申し出に、せめて3年目を終了して卒業していく宍戸と、2年目を終了する成瀬と知花にはこの実習を通して、自分がどれだけ成長出来たかを確認させたく、またそれが将来の自信に繋がってくれることを願い、伊藤先生に無理を聞いて頂き実習を決行。それだけに自信で輝いている学生達の顔に、「ご無理を聞いていただいてよかった!」と安堵する思いと、学生達のために「チャンスは絶対逃がせない!」という思いで、いっぱいになった。

20日3時30分、無事成田に到着。
上田学園の生徒達だけで添乗して帰国して来たお客様数名の荷物をターンテーブルから運び「お疲れ様でした。お気をつけてお帰り下さい!」とお辞儀する学生達に「本当にお世話になりました。来年もまたお目にかかりましょう!」と労って下さるお客さまの笑顔に、学生達一人一人にホットした表情が浮かぶ。そして最後のお客様をお見送りし、自分達の荷物の通関を済ませ、吉祥寺へ戻るリムジンバスのチケットを買いに走る学生達の背中に“満足”という文字がしっかり描かれていた。

今回の研修は本当に忙しい研修旅行だった。そして改めて考えさせられた。甘やかすことと可愛がることは全く違うということを。

学生が可愛いから同情せず突き放す。本当に助けを必要とするまでじっと見守る。それは本当に自分との戦い。

口も手もすぐ出したくなる。疲れた顔をし、上手くお客様のご要望にお答え出来ないと言ってがっくりしている学生達。一生懸命やっているのに可哀想だという思いで、思わず「私がやってあげる」と口に出しそうになる。それを抑えて自分の気持と戦う。目も耳もしっかりダンボにしながら、でも一見「見ざる、聞かざる、言わざる」を決め込む。これは本当に苦しい。苦しいからと言って学生達を理解したつもりになって彼らに同情し、手を出す。その結果、自分の気持は「学生達の力になれた!」という思いで満足出来るが、同情したことにより、結果的には学生達が成長するチャンスを踏み潰してしまう。

ハードルを越えながら成長していくことは決して楽なことではない。むしろ苦しいことだ。でもそれをどこかでしなければ大人になれない。独り立ち出来ない。

独り立ち出来ない人間はいつまでたっても親のペットでしかない。独り立ち出来ない人間が社会人になり会社人間になっても、それは単なる会社の“お荷物”。単なるお荷物はいつか会社から切られる。そして本人を苦しませる。それが現在起こっている日本の現実だと思う。

体験することを怖がり、失敗を恐れ、自分のプライドにしがみつき、何とか自分を保とうとする子供達。親にしがみついて離れようとしない子供達。そんな子供達に同情して、本来の彼らのもっている力を軽んじてはいけない。子供達の持っている“生きる力”にはすごいものがあると思うから。

チャンスを与えても受け取らない今の子供達ではあるが、命に関わること以外なら、どんな困難な状況になっても、その状況の中で突き放してみると「それ、どこに隠していたの?」と聞きたくなるほど、逞しい底力と知恵を行使して這い上がってくる。

失敗が失敗でなく、成功の過程であることが分かると安心して失敗をしてくれる。それが大切だと思う。その失敗の結果を自分で認め、考え修正する力は実践でしか育たない。だから子供を可愛がっても、同情してはいけない。

今回の研修でも、時には青い顔をしたり赤い顔をしたりしながらでも、突き放されれば放されるほど懸命について来ようと、学生達は頑張っていた。

「しんどかった!」と本音が出たほど、たくさんのお客様からの待ったなしの用件にお答えしようと悪戦苦闘する中、午前中より午後。午後より夜と、色々な失敗から生還し、その経験を一つ一つ自分の手で自信に変えていった学生達。研修旅行のはずが添乗員のリーダーの方から「君達が居てくれなかったらどうなっていたか、今回は本当に助かった。ありがとう!」という、将来大きな自信に繋がるだろうと思われる、感謝の言葉を貰って帰ってきた。

1月22日木曜日。今日が今年初めて全員で迎えた上田学園の授業第一日目。
久しぶりに顔を合わせた15歳から25歳の学生達が、嬉しそうに声を掛け合い、近況報告をし合っている。そんな彼らを見ている私も、なんだかウキウキして笑いが止まらなくなる。今年も何か良いことがおきそうな上田学園。

「上田先生、色々叱って下さってありがとうございました。『3年前には貴方がこんなに変われるとは思わなかった』と、前の学校の校長先生にとても誉められました。自分でも昔の友達に会って、自分がすごく変わったのが分かりました」。お正月休みから戻った学生が涙をいっぱい浮かべた目で、90度お辞儀してくれた。

90度お辞儀してくれたことに驚きながらも、学生に感謝されたことは素直に嬉しかった。でももっと嬉しかったことは、本当に自分が自分で望んでいた方向へ変化をしていることを自分で確認し、喜んでくれたことだ。これが、上田学園が上田学園でいる使命だと思う。

上田学園は今年も皆様にお知恵とお力を拝借して、学生達が自分のテンポで独りで自分の道を歩いて行けるよう応援をさせて頂きます。そして学生達にとって2度と来ない「今」というチャンスを見逃すことのないよう、しっかり彼らを見つめ、彼らの「今」が起こったときには、お金や時間や大変さには関係なく、いくらでも学生達の後押しが出来るような力を備えた学園にする所存です。

今年も昨年以上に学生共々、上田学園を宜しくお願い申し上げると共に、皆様にとっても今年が楽しい1年になりますよう上田学園一同、心からお祈り申し上げます。

上田学園の秋学期は後1月で終わる。例年にない早いペースで4月の新学期に向けて、色々な背景の色々な年齢の方々が見学を希望して下さり、私のスケジュール表が少しずつ埋まり始めている。そのスケジュール表を見ながら「今年の春はどんな学生さんが入学し、在校生とどんなハーモニーを奏で、どんな成長をしていくのかな?」と考え楽しんでいる私の横で、日曜日の今日も、吉祥寺駅前のハモニカ横丁の関係者の方々にインタビューするために出かけて行く学生。他の方にインタビューを申し込む電話をしている学生。他の授業との時間調整をしている学生。野原先生の授業をまとめるために忙しそうに動き回る学生達。上田学園の春は、もうそこまで来ているようだ。

 

 

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