●学園長のひとり言 |
平成17年1月29日*
(毎週1回) 生きたお金、生きた時間 搭乗ゲート前の待合室。100名近い日本人の若者がコカコーラを片手にスナック菓子を食べながら大声で話している。 “ウンチングスタイル”座りで楽しそうに大声で話している彼らや彼女らを山のようなルイビトンやプラダの袋が取り囲む。「買物ツアー?」、そんな若者を横目に、空いている席を見つけて座る。 搭乗時間を確認しながら100名近い日本の若者に乗っ取られでもしたような賑やかな待合室の片隅、ひっそり座っている外国の人たち。 ビジネスマン。子供連れの主婦。バックパッカーの旅行者。年齢も職業もイロイロな人たちが、本を読んだり、手帳に何かを書き込んだり、子供と静かに話をしたり、コーヒーを飲みながら日本人の若者を眺めたりしている。そんな彼らの向こうでは、待合室に入るために荷物検査を受ける列が出来ている。“ウンチングスタイル”座りの若者の中から歓声が上がる。 「大学生かしら?短大生かしら?それともフリースクール?」そんな疑問が頭を横切る。19歳から22・3歳位に見える彼ら達。女の子も男の子も日本のどこにでもいるファッションをした若者達の集団。 「どうして売春婦のような格好をしているんだろう?」と、無意識に言葉が口に出る。 日本の若い女の子の服装はまるでヨーロッパの売春婦の格好だ。その格好に不似合いな可愛い小さなぬいぐるみが、これ以上ぶらさげ不可能状態で彼女らのバックにぶら下げられている。 スナック菓子をつまみながら大きな声で笑い、たわいない冗談を言い合う人の善さそうな彼女らだが、きっとヨーロッパ人の目には「学生」とは見えないだろう。 そんな女子学生とは別に、まるで制服のように全員がパーカーにだぶだぶズボン。ぱさぱさした赤い髪。気の弱そうな優しい顔が笑っている。そんな彼らをボーっと眺める。 「上田さんのお知りあいですか?」急に声をかけられビックリする私の前に、一人の男の方がニコニコと笑いながら立っている。学生たちが添乗員アシスタントとして実習させて頂いた「買い付けツアー」のお客様のお一人だ。 ドライバーさんを助けてバスから荷物を降ろしたり、展示会場に案内してくれたり、免税手続きの手伝いをしてくれたり、チェックインを手伝ってくれたりした気持ちのいい若者たちは、どこの誰たちかと聞いてきたのだ。 上田学園というフリースクールの学生であり、授業の一環として買い付けツアーの添乗員のアシスタントを努めさせて頂いたことなどをご説明し「皆様のご迷惑になったのではありませんか?」と言う私の言葉をさえぎるように「いい学生さんたちですね。清潔で気持ちよくて、一生懸命でしたね」と、彼の後方で騒いでいる“ウンチングスタイル”座りの若者たちを目で追いながら、褒めてくださった。 例年だとフランクフルトの展示会から研修が始まるのだが、今年の研修は飛行機の関係で別々にヨーロッパに入り、パリで待ち合わせをすることになった。 旅行会社の取り締り役でもある伊藤先生や、伊藤先生の会社のスタッフや添乗員の方々とご一緒に買い付けのお客様120名をご案内して、学生たちより三日早く日本を発ちフランクフルトへ。 ニ日後、数名のお客様をお連れしてミラノ経由でフランスに入った私は、「私たちのスケジュール」より一日早く自分たちだけでパリに飛んできて、ネットを通して自分たちで見つけ予約していたホテルに泊まり、伊藤先生からの指示通り「買い付け」のお客様たちが訪問する住宅展示場など、お客さまが泊まるホテルからのアクセスを調べたり、展示会場まで実際に行き、入場券の購入の仕方などを確認をしておいてくれた学生たちと現地のガイドさん達に迎えられた。 今年で三回目のナルチェリンから初めて参加した荻チャまで。研修に参加した学生達の海外旅行経験、語学力、「絶対海外なんか行きたくねー」から「面白そう!」まで、本当に色々な条件を背負って参加した学生達。背広姿でパリの飛行場に出迎えてくれていた学生達の顔が、緊張でこわばっていた。 全員の顔が見えない。「他の学生は?」と大ちゃんや藤チャ、そして日本を出てくるときに病気で臥せっていたヒロポンの顔を探す。 「パリに来なかったの?」という私の問いに、ドクターストップが出たヒロポン以外の学生たちは、私たちのグループと30分違いでフランクフルトからパリに直接入って来たグループを、当日の朝にパリに入った伊藤先生と一緒に他のターミナルに出迎えに行っているとのこと。何となくホットすると同時に学生にとって第一日目の仕事、「大丈夫かな?」と心配になった。 全員バスの中で顔をあわせる。 翌朝8時半、待ち合わせ時間に遅れずにホテルにやってきた学生達。彼らに伊藤先生から指示が出され、その指示に従い学生達が動き出す。
フランス語が出来ないことも、英語力の差も全く考慮されず、年齢や経験の有無に関係なく「喜んで頂けるサービス」を提供することが当たり前な仕事の現場で、学生達にも公平に「いいサービス提供」を要求する先生に、ピンと張り詰めた空気が学生達の間に流れる。 緊張が学生たちを素直にし、一生懸命動き回らせ、お互いを支えあい、学校の中では見られないような良いハーモニーを奏でているように見える彼らの仕事ぶり。嬉しくなって思わず笑みがこぼれる。 「この学生さんが一番お若く見えるけれどね。でも、気がつくと何時も何気なく私達のことを危なくないように見ていてくれるのよね」と、出発の寸前まで行くのをいやがっていた大ちゃんに感謝をして下さる老齢のお客様。 腰痛があり、重いものを持たない方がいい藤チャ。率先してお客様の荷物をバスから降ろしてくれたりと、体がその場の雰囲気を捉えて正確に行動する。何を頼まれても全く嫌な顔をしないでクルクルとよく動き回ってくれる。そんな藤チャを助けて小高マンが動く。荻チャが動く。そして三回目の研修をしている成チェリンが「勝手知ったるパリの地下鉄」とばかりに、目的地に向かってスイスイとお客様を誘導する。そして「お疲れ様でした!」と声を掛けあって自分達の泊まっているホテルに帰って行く。 今回の研修は、今までの研修の中では一番短い研修日数だった。しかし、研修にかかる費用は例年とそう変わらない。 時間の無駄も、お金の無駄も、平気でする学生に心を痛め「どうせ使うなら時間もお金も有効に使おうよ!」と叫びたい思いにかれれることが度々あったが、研修に出かける数日前の雑談の中で、「俺達が一番親に心配を掛けているし、お金もかけてもらっているんじゃねーか」と言った荻チャの言葉に「そうだよな、そう思うよ!」と相槌を打った学生たちのリアクション。「きた!分かってきた!」と思わず手を叩きたくなった。 そんなことがあった後の今回の研修。一番忙しく大変な時期に、大切なお仕事を通して「生の教育」をして下さった伊藤先生に感謝すると同時に、毎回高い研修費を出して下さる学生達の親御さんに感謝。月謝も研修費も「生きたお金」になっていることが心から嬉しく、伊藤先生に無理をお願いして「今年も研修をやってよかった!」と実感すると同時にホットした。 ニ日遅れて帰国する伊藤先生やお客様をホテルに残し、ガイドさんと上田学園の学生たちに付き添われて飛行場へ。 「気をつけてロンドンに行ってね。シーシーに宜しくね。仕事は終わったんだから目いっぱい楽しんで!」と言う私の言葉に「ハイ!」と頷きながら、帰国する私達と別れてロンドンに飛ぶ学生たち。 彼らに見送られて日本に帰国する27名のお客様と一緒に、免税手続きも、チェックインも無事済ませ、学生たちを褒めて下さったお客様の言葉がまるで陽だまりにいるようなポカポカした暖かい気持にしてくれて、寒いパリから日本へ出発することが出来た私は「幼児教育の視察でヨーロッパに来た!」という、両手に持ちきれないほどのブランド物の入った紙袋を抱えた100名近い専門学校や大学生たちの横をすり抜け「満席です!」と言われた飛行機に搭乗するために列の後方に並びながら、叱られたり注意されたりしながら研修をした上田学園の学生達に「生きたお金と生きた時間を過ごせて、よかったね」と声をかけてあげたいと、なんとも誇らしい気持ちで帰国することが出来た。
生きたお金。生き時間。上田学園の生徒たち。今回の研修。学生たちの持っている素晴しい可能性と未来に「乾杯!」君たちを心から誇りに思うし、そんな君たちに気持ちよく研修費を出してくださった親御さんにも感謝。研修のチャンスを下さった伊東先生にも感謝。こんな研修が来年も出来ると「嬉しいね!」 |