●学園長のひとり言

平成18年1月31日
 (毎週1回)

勝ち組、負け組、納得組

久しぶりに日本の新聞を手にした私の目の中に「ライブドアに強制捜査」という文字が飛び込んで来た。「え、何これ?」とシートベルトを締めるのももどかしく貪り読んだ新聞記事。毎年行われる旅行の添乗員アシスタント研修帰りの全日空機内でのこと。

何回も読み直す新聞記事の中で、ライブドアのホリエモンこと堀江貴文社長の写真が笑っている。ここ1・2年、野球球団・ラジオ局・テレビ局の買収などで彼の顔がテレビに登場しなかった日はなかったのではと思えるほど、色々なところに出て来て話題をふりまいていた彼の顔が。

フランクフルトの展示会で商談を終えたお客様たちのグループを日本やパリ、イギリスなどにフランクフルト空港から見送った後、イタリア旅行をしている学生達。株の授業の中で、日経ストックリーグに2回目の参加をし、添乗員研修に出発する寸前まで投資対象にしたい企業の社会貢献度などを調べたり分析したりしながらリポートをまとめ提出したばかりだった学生達にとって、今回のライブドアの問題、どんな感想を述べるのだろうかと考えながらでも、堀江社長や彼を取り巻く社会の問題は、まさに現代の日本を象徴するように思えると同時に、何となく「やっぱり」という思いが強かった。

あれから毎日毎日ライブドアのニュースが流れ、堀江社長から元社長になり、それにコメンテータと言われる人たちによる色々なコメントが添えられ、議論されている。

「ホリエモン式錬金術」「個人投資家に対する責任」「IT企業の勝ち組負け組み」「脱法行為」「違法行為」など等。そんな言葉を聞くたびに「どうしてホリエモンの言葉は心に響いてこないのだろうか」と不思議に思いながらテレビの中の彼を眺めていたことを思い出すと同時に、「悪いことをしているつもりはないので、コメントする理由も逮捕される理由も無いです」と言い切っている彼の言葉に、「本音だろうな」と不思議に納得してしまう。。

彼にとってお金を儲けることも含め、会社を経営するということは、ゲームの中の出来事でしかなく、また社会の一員として生活すること、この世で生活すること、全てがゲームなのだろう。だからこそ何事においても、例えそれが法すれすれのことをやっていても、また法を超えてやったとしても意識下では罪の意識ではなく、こんな面白いサバイバルゲーム、[やらない奴らが馬鹿]と思っていたのではないだろうか。

そんな意識で行動している彼らが使っている表現手段の日本語は、決して共通日本語ではないと理解したほうが、今回の事件をなんとなく理解できるような気がする。

会社を“おもちゃ”にして遊んでしまったライブドアの役員たち。今回の事件は個人の権利・自由・責任・義務と社会の一員としての権利・自由・義務・責任の在り方を教えない幼稚な国、日本の持っている教育問題を顕著に露呈しただけなのでは、ないだろうか。

ここ数年、子供を巻き込んだ悲しい事件が相次ぎ、其のたびに被害者になることを恐れ、「子供たちを守ろう」と色々な取り組みがなされている。またその関係機関にたいする申し入れも多々あり、議論もなされている。が、その全てが問題からずれているように思えている。

会話の成立しない家族関係。常識も非常識も個性とかいう言葉で煙幕が張られ、権利ばかりを行使することを許してしまう社会。そんな中で、いつ自分の子供が被害者ではなく加害者になるかもしれないということは、誰一人として心配していない。ただただ自分や自分の子供を守るための議論しかなされない。

上田学園の学生たちも例外ではない。彼らもある意味、家庭の被害者であり、教育の被害者であり、社会の被害者であるといって過言ではないだろう。が、だからといって、いつも被害者であるのかというと、思いがけないところで加害者になりうるという思いもある。だからこそ、自分の行動や自分を取り巻く環境をしっかりみつめ、理解し、納得し、其の上で行動が出来るようになって欲しいと願っているし、その為に学生達と向き合っているつもりだ。

今回のライブドアの問題を頂点にして、ここ数年の間におきている大小さまざまな問題のすべてに、時代の流れを感じている。そんな時代に生きる自分たちだからこそ、どんなに地味で格好悪く見えようとも、しっかりと地に足をつけて生きていけるような教育が、子供たちには必要なのだとも考えている。

ここ数年、世の中が「勝ち組」「負け組」というたった二つの分類で物事を押し測る傾向が強くなり、「負け組」と呼ばれるグループに取り込まれないようにと、親たちをはじめとする大人たちが、あせっているように見える。

親が大好きで、親を喜ばせようとする子供たち。そんな親たちの考えに影響され、ますます「勝ち組」になることだけに熱をあげ、空回りが激しくなっている。その結果が心の病となって現れ、その結果「犯罪」と呼ばれる現象を引き起こしていると思えてならない。

こりない日本の社会。際限なく「勝ち組」という言葉が必要以上に世の中にばら撒かれ、親はますます「勝ち組」に固守し、「勝ち組」と言う言葉に流される。

自分の遺伝子を継いでいる大切な自分の子供であることを完全に忘れ、自分のアクセサリーとしての役を期待し、その期待を、何の悪気もなく子供に押し付けている。

「勝ち組」とは何をして「勝ち組」とするのか。一時的なその場だけの成功をいうのか。

「負け組」というのは何をして「負け組」というのか。世間的には華やかでなくても、心が充実し納得している人生を送っている人は本当に「負け組」なのか。

2006年の1月。「新しい息吹を感じる若者たち」と言われていたライブドアの社員達がおこした、社会問題。一見ゲーム感覚で起こした新しい問題のように見えるが、その問題のどこにも新しさなど感じない。単に成果だけを評価する教育を受け、成果主義に走った小心で、小利口で小ズルイ男たちが、自分たちを偉大な人間と勘違いしてドンキホーテを演じただけだとしか、思えない。

発信元と受信元に意味の解釈にズレのある「騙す、騙される」「騙した、騙された」「勝ち組、負け組み」「頭が良い、頭が悪い」など、社長として発したホリエモンの言葉がうんざりするほど電波や記事を通して繰り返される。

新しい息吹を感じ、ホリエモンを賞賛していたはずのマスコミもふくめ、色々な人たちが手のひらを返したように今回の事件の報道をする。そんな報道を見ながら、今回の問題と上田学園の学生達の未来とをダブらせて考えてしまう。そして上田学園の学生達には、「人生を楽しむこと」と、「人生をおもちゃにすること」の違いを、しっかり理解できる人間に育って欲しいと願わずにはいられない。

人間の社会はどんなに一生懸命やっても間違えや問題が起きるし、起こしてしまう。だからこそ、そんな世の中でどう自分が人間として“ずれずに生きていけるか”を、教えていくのが大人の役目だろう。

世の中、不平等が平等の原理だ。そんな中で生きていくために不平等を平等と思えるように自分でアジャストする正しい方法を学ばなければ、間違った生き方をしてしまうのではないだろうか。そのためにも権利・自由・義務・責任についてしっかり子供達に理解させ、その上で「負け組」でも「勝ち組」でもない「納得組」の人間、納得して自分の人生を一生懸命築いていける人間を、育てるべきだろう。

優先順位の一番上が際限なく続き、「園長の独り言」に書き込みが出来ずドタバタしているうちに年を越し、「何もしないで2005年が過ぎてしまった」と反省しているうちに、2006年の今年も、ひと月があっという間に終わろうとしている。

こんなことをしていたらきっとまた今年の年末には、去年と同じような感想しか言えなくなるだろう。昨日の自分と比較して、ほんの少しでも進歩できるよう努力することを学生達に要求している私が、これでは学生達に申し訳ない。

引きこもり・不登校・中退・色々な背景を背負っている学生達。自分達で自分達の授業内容のハードルをあげている。

自分にしか興味のなかった学生たち。当たり前のようにお互いを思いやりながら、でも切磋琢磨して自分を磨き始めている。

今年は何か面白い流れを起こしそうな学生たち。「私に出来ることは何だろう?」。学生たちを指導して下さる先生方のお邪魔にならないようにしながら「何か出来ることはないだろうか」等、そんなことを考えながら、嬉しく眺めている横で、時々居眠りをしながらナルチェリンが一生懸命勉強をしている。頑張っている。それがまた嬉しい。

仲間の思いを何回裏切ったら気が済むのかと、ダイの復学希望を聞いて心配していた学生たち。皆に頭を下げ、復学を報告したダイに「顔がかわった。今のダイならやるんじゃないですか?大丈夫だと思いますよ」とポツンと感想を述べた藤ちゃ。彼の周りに優しさのオーラが。

どうやってつきあっていいかわからなかったけど、「上田学園で少し分かったから」と、家族との関係を意味不明な日本語で説明をし、相変わらず自分流の正直さと、誠実さで猪のように勉強にでもなんにでも猛突進をし、不思議な魅力で学生たちを魅了する荻ちゃ。

将来の指圧師。指圧の専門学校の受験に緊張しているヒロポン。「試験に落ちてもいいからね、落ちたら今日の豚カツ代、ヒロポンもち!」などと言う私に「それじゃ二重苦じゃないですか」と、オッちゃんの肩もみをしながら文句を言ういつもの穏やかなヒロポン。なんともホットする光景がそこにある。

鯔がつぶされたように寝そべって、ヒロポンの指圧練習台になっているオッちゃん。「まだまだ『出来ない』と正直に言うことに抵抗があって・・・・」と言いながらも、色々なことがあった昨年と比べ、今年は上手に滑り出したようだ。だが、どんなに苦しんでもいいから、今年はもっともっと色々なことを体験して欲しいと願っている、ずっとそばで見ていられる間に。

専門学校の入試のために日本に残ったヒロポンとお留守番組みだったDr. 鈴木。久しぶりに会った彼の顔に表情が出て、少し明るく味のある顔になってきている。

まだまだ一日置きの出席だが、自分の体調管理を上手にして、毎日学校に出てこられるようにして欲しいと考えている。そんなDr.を、他の学生達が暖かい目で受け入れている。何ともほのぼのとした優しい気持ちで。

大学に行くか専門学校に行くか迷っていたときに村上龍のホームページで上田学園を知り、見学のため来校。在校生以上に身を乗り出して授業を受けていた門馬さんが、単身赴任しているお父様を説得して、入学してきた。

入学が正式に決まる前から肩肘張らない素直な彼女に好感を持った学生たち。「アルバイトを整理して2月から来ます」という彼女の言葉を受け、授業でのグループ分け名簿に、彼女の名前を載せていた。

そんな彼女は片道1時間半以上をかけてフーフー言いながら飛んで来る。でも授業の中の彼女は、ずっと前から在学していたかのように上田学園の学生達に溶けこんで、学び始めている。それも何気なく置かれているストーブのような、暖かい雰囲気をかもし出しながら。

来週もう一人、大学を中退して入学をしてくる。
1月早々、同じ大学に行っている弟さんと二人で授業見学にきていたが、「親と話し合って大学を中退して上田学園に入学することを決めました」と、福島から連絡してきた。

彼の細かい背景は知らない。だが出会えたことに感謝したいと思う。
上田学園に入学を決めた彼に、上田学園の授業を心から楽しんでくれることを願うと同時に、在校生がきっと楽しくなるように授業との橋渡しをしてくれるだろうと、確信している。

生半可ではない忙しい仕事を一生懸命しながら、上田学園の聴講を続ける卒業生のタッチ。体を壊さず、上田学園の授業を楽しんで欲しいし、聴講することがストレス解消の一因になればいいと願っている。それにしても、面白い宿題をしてくる。さすが「プロ」

「今卒業させて社会に出したら駄目になる。でも上田学園での4年目は必要ない」そんな思いとで、心配していたナルチェリン。新聞配達所に住み込んで、眠気と慣れないバイクの操作とで、壁にぶつかったり、看板や植木鉢を壊したり、走っているバイクから落ちたりと、小さな事故ではあったが何回もヒヤヒヤさせられる事故を起こしてくれた。そんな中でも、金融アナリストの勉強と、上田学園の聴講生を頑張って続けている。

頑固さに時間を取られ、在学中に一番学んで欲しかった「時間の使い方」、「自分の常識、世の中の非常識」などということを、色々制約のある中で現在体験させられ、気づかされている。そんな成チェリンの毎日を見てホットすると同時に、「真面目で良い学生さんですね」と褒めて下さる所長さんに、「皆様のお陰です」と思わず深々とお辞儀をしてしまう。

「上田学園に在学している間に良い結果がでなくてもいいんですよね。社会に出てから気づいて、上田学園で学んだことを実践できるようになれば」と言って仕事に頑張っている野呂田。卒業生の結婚第一号に、今年の夏になる。「先生に絶対会ってもらいたいから、連れて行きます」と言い、結婚を知らせる電話の中で「うちの嫁が」を連呼していたが、“うちの嫁”に早く会いたいと、夏の来るのを、今から楽しみにしている。

帰ってくるたびにますます穏やかに優しくなるシーシー。イギリスの大学生活が本格的にはじまり、当分帰国は出来ないだろう。今の彼なら楽しい大学生活をおくるだろうことは、確信できる。

タイの大学で頑張っている金谷、今年は大学の3年生になる。春には一時帰国するようだが、今からそれを楽しみにしている。

天ノッチをはじめとするその他の卒業生たちが、自分らしく一生懸命やっていることを見たり聞いたりするたびに、彼らに大きな影響を与え、育てて下さった先生方お一人お一人に心から頭を下げたくなる。そして心から思う「なんて幸福で、なんて贅沢な仕事をさせて頂いているのだろうか」と。そして歌いたくなる、私のテーマソング「♪ガンバラナクチャ〜、ガンバラナクチャ〜♪」と。

祝 旧正月                     
昨年は色々お世話になり、ありがとうございました。
お蔭様で、学生達が日一日と逞しくなり、誰に言われたのでもなく、お互いに切磋琢磨して影響を与え合いながら自分の人生を歩く準備になる「学び」を始めるようになりました。

一番苦手としていた共同作業をも嫌がらずに当たり前のこととして受け入れるようになり、社会を構成する一人の人間として学生達が成長し始めていることが分かり、嬉しく思っております。そんな中、新しい学生達をも迎え、無事2007年の上田学園がスタートしました。

2007年の上田学園はどんな上田学園に育っていくのか、「勝ち組」「負け組」に関係なく自分の人生を納得して生きていけることを願って「納得組」をしっかり育てるために、今年も各先生方のお力を拝借し、学生達と一緒にいっぱい悩んだり考えたり、驚いたり笑ったりしながら、地道に、でも確実に、歩みを進めて行きたいと考えております。

上田学園のホームページをお読みになって下さる皆様、どうぞ今年も上田学園をよろしくお願い致します。
                        上田学園園長
                            上田早苗 拝


 

 

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