●学園長のひとり言 |
平成18年5月20日 上田先生もそれなりに! 「本当に美人に撮れるのね?それなら購入OKよ!」 学生たちがプロ仕様の撮影機材が欲しいという。今までは、リサーチの授業内容をウエブで発表したり、本にしたり、チラシにしたりしていたが、今回から本格的に文章と映像と両方を使って発表したいという。そのために、どの機種にどんなメリットやデメリットがあるのかをメーカー別に比較し、また学校に一番負担をかけない購入方法として、リース・レンタル・購入を、下取りのことまで考えて比較したデーター、それをどこのお店から購入したら一番安く、それも安心して購入できるかの比較データーまでもまとめて、交渉に来た。 上田学園の学生たちは色々な理由で上田学園に入学してくる。そんな学生の中には、5年も6年も引きこもっていた学生もいる。引きこもらないまでも、何に対しても興味が持てず、無駄に年月だけ過ごしていた学生もいる。そんな彼らが上田学園で学びながら長い間のブランクを何とか克服しようとあがき、苦しんでいる。苦しみながら一生懸命授業についていこうと努力し、頑張っている。 そんな彼らの努力に「よく頑張っているね」とエールを送りたくなる。そして上田学園が出来ることは、出来る限り彼らの“今”を見逃さず、生きていく、考えていく、実践していく力をつけることが出来るいい学びの材料があれば、担当の先生とご相談して、フリースクールの特権、何でも授業に取り入れていこうと考えている。時には無謀と思えるようなことにでも。そんな考えを支えてくれているのは、母の言葉だ。 上田学園の子供たちのことを、明治生まれの母は「国を担ってもらう大切な子供たち」と呼び、「お金が出来たから、時間が出来たからといって、『今なら出来ます』と言っても、必要とされる、必要とする時期を逃していたら、それは全く無意味。私のことや家のことは心配しないでいいから、時期を逃さず出来る限りのことはやってあげなさい。出会える“チャンス”は神様が子供たちに下さったプレゼント。それを無駄にしてはダメ。どんなお子さんにも大きな未来とたくさんの可能性があり、そんな可能性を持った大切なお子さんたちだからこそ、少し無理してでも、出来る限りのことを一生懸命やらせて頂きなさい」と。 新しい学生たちを迎え、またゼロからの出発の上田学園。去年までの異常なほどの活気が消え、静かになったように見える上田学園。 しかし、卒業生が仕事の合間に参加している授業を通して無意識に伝えてくれる学びの楽しさと、上田学園の授業が社会に出て「即役立つ」という事実を、身をもって体験している卒業生から伝えられることも手伝ってか、先輩たちが残してくれた「学ぶ」という姿勢が学校の雰囲気の中に残存し、ゼロからスタートの新入生たちのはずが、全くのゼロではい何かを持ってスタートしているのを見ると、卒業していった学生たちに感謝したくなると同時に、なんとなくウキウキした気持ちになり、「この子達の未来が楽しい!」と本気で思え、本気で夢みてしまうほどだ。 そんな彼らが皆で「やりたい」と願い、「買って欲しい」と交渉しに来たのだ。それも単に交渉しにきたわけでは、ない。色々なことを調べ、資料にまとめ、それを持って交渉に来たのだ。その真剣な様子に、断われる人は多分いないだろう。 他の学生がじっと見守る中で、学生代表の成チェリンが交渉するのを聞きながら「よくここまで調べたね」と内心驚くと同時に、「そうなのよね。調べた結果ではなく調べる過程が一番いい勉強になるし、交渉するのにここまで情報が与えられていたら、思わずOKが出したくなるのよね」と、心の中で独り言を言いながら説明を聞き入っていた。 HPの中の「プロモーションビデオ」も、今後まめに内容を変えて作っていくそうだ。そして今回は「美しい先生」に見えるよう撮ってくれるようだ、…多分。 国内の修学旅行を単に海外に変更しただけの海外研修旅行。「難しい!」と思い込んでいる親たちにはアピールするが、「コンピュータの授業あります」というほどの授業内容ではないコンピュータの授業。英語が話せたり外国人とつきあいがあれば、すべて簡単に国際人になれると短絡的に考えてしまう島国の日本人。そんな私たちにアピールする「外国人との交流会あり」など、一見魅力的に見える「人寄せパンダ」のような授業は、上田学園では必要ないと考えている。 時間をつぶし、お金を使うのであれば、学生にとって必要なこと、必要だと思われることに時間とお金は使いたいと考えているからだ。 「お片づけ」など全くする必要のなかった学生たち。何をしてもやりっぱなしの使いっぱなし。それは「なし!」ということで撮影機材の購入を許可した。責任者は成チェリン。 日曜日もつぶして撮影に行く学生たちの肩に、プロ仕様の重いカメラが担がれている。そして各自が調べてきたものをプロジェクターを使って発表し、また撮影してきたものも発表する。それを見ながら「なぜそうなのか?」という誰も何も考えもしないようなところに「どうしてなんだろうね?」と先生が疑問を投げかける。何かを気づいた生徒たちの中にも「あれ?」という疑問が頭を持ち上げる。それを合図に学生たちの意見が少しずつ出始め、視野がほんの少しずつ広がっていくのが感じられる。 学生たちを見ていてつくづく思う、「教育とは生きるための道具箱」だと。その道具箱の中にある道具の使い方を学んではじめて、自分らしく生きて行く準備が終わるのだと。 生きるための道具箱には、数学や英語などの各教科は勿論だが、それ以上に機材も親・先生・友達も含む人材も、状況も、学校内外で起こるすべてのことが彼らにとってのいい学びの材料になっている。 今回の撮影機材についても、学生たちが自由に使用出来るお金が入っている銀行口座の凍結問題も、チームを組んでする授業に簡単に休んでしまう学生との付き合い方も、上田学園の特徴でもある途中入学の学生のキャッチアップの仕方も、毎日に起こる何気ないことや、意識して交渉することや、自分を中心にして考えられないことで悩み苦しむことも含め、あらゆることが意義のある学びのチャンスであり、それを見逃さないように大切にしながら、一つ一つを拾い、それをどう学生たちに投げかけていくのかが、上田学園の使命だと考えている。 来週から今週以上に時間のあるときは、カメラを担いで撮影隊が色々なところに撮影に行くようだ。リサーチの仕方がもう少し分かってきたら撮影隊の一員になれるという許可をもらった大ちゃんも補助員として応援についていくようだ。 学生たちの目はどんなところを映像にし、どんなシャッターチャンスを捕まえるのか楽しみだが、それ以上に楽しみなのは、HPに次回載せるプロモーションビデオ。何とかそれなりに美しく見えるように多分撮ってくれるという言葉を楽しみに、彼らの撮影の腕が上がるのをまっているところだ。
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