●学園長のひとり言 |
平成18年8月27日
(不定期更新) 俺!天才? 「多分、これであれであっていると思うんですが・・」 ヒロポンが差し出した英語の試験問題、彼と一緒に答え合わせをする。 いつものように笑顔で、でもちょっと興奮気味に語る彼の受験勉強。何事にも真摯に取り組む彼らしく、真面目に一生懸命努力した様子が答え合わせの中に見え、思わず拍手がしたくなった。 結果発表はまだこれからだが、ヒロポンも私もあまり結果を心配していない。ダメなら11月に再チャレンジすればいいだけだからだ。 受験勉強は往々にしてその場だけの勉強になりがちだが、ヒロポンは受験というチャンスを利用して、英語の基礎をしっかり身に着けたようだ。試験が終わっても英語の勉強は指圧学校の受験に必要な生物と一緒に続けていくという。そう話してくれたヒロポンの顔は今まで以上に明るく、自信に満ち、そして口から出る言葉も、一つ一つも実際に実行した者の口からだけ発せられる力強い、頼もしい声だった。 「先生、俺やばいです。天才かも?先生方から絶賛されています」 12日間の講習会の間に短編を一本各グループで作らされるという。現役の大学生や、俳優の卵、そしてサラリーマンたちが受講しているという。そんな彼らがグループになって企画会議をしたが、その企画会議は上田学園の初歩の初歩。上田学園で今それをやったら叱責されそうな会議に、思わず成チェリンが提案して、効果的な企画会議をするように仕向けたという。そんな成チェリンに映画関係の先生方が絶賛したのだという。その上、上田学園の授業で製作している「象のはな子」のドキュメンタリー。学生たちのためにと、清水の舞台から飛び降りたつもりで買ったプロ仕様のカメラに「『そんな凄いPVが学校にあるんだ?』と驚かれました」と、嬉しそうに語っていた。 「参加してよかったと思います。学ぶことが本当に多くて、それに学園のカメラ、いかに使いこなせていないかよく分かりました。プロの人は本当にすごいんです。光の当て具合一つで、真昼の絵が、夜の雰囲気になるんです」と興奮して授業のことや、同じグループの人たちについて話してくれた。 夜のアルバイトを一時的に昼に変えてもらって、仕事を終えたあと一生懸命通った12日間。最後の2・3日は1・2時間の睡眠で編集作業をしたという。 毎日ウキウキとした様子で通っていた映画講習会。とても誇らし気に語ってくれた映画講習会での出来事。たったの12日間だったがそれがウエブで発表する「象のはな子」の雑誌編集作業に、思いがけない影響を与えたようだ。 成チェリンは言う「これが動く映像なら俺はこういう角度で撮影する。だから雑誌でも・・・・と、考えながら編集しているんです」と。事実、そんな彼の編集はなかなか面白い物になっているようだ。 映画の講習会にはオギッチも参加した。元々映画関係の仕事に就きたいオギッチの希望を聞いて、同居人の一人、卒業生のタッチがオギッチのために見つけた講習会だという。 当初は「どうしようかな?」と考えていたオギッチを横目に、成チェリンがさっさと受講を申し込み、そして講習当日の朝にやっと決心のついたオギッチの申し込みが完了。成チェリンとは違うグループで短編を一本製作したという。 「俺、あんまり変じゃないかもしれない。俺より変な奴、いっぱいいた。そんなところで頑張らなくてもいいのにというところで頑張る成チェリンみたいな変な奴もいっぱいいた。それも30代40代のオヤジのくせに」と、オギッチがいつものように、笑いをこらえたような照れくさそうな顔で、辛らつな意見を言う。 言葉の省エネで何も話してくれないオギッチに、「楽しかった?」「面白かった?」「どうだった?」としつこく聞き出そうと頑張る私に、やっと口を開いて報告してくれたのだが。 自分のことは「まともだ」と考えているだろうとは、予想していた。しかし予想とは裏腹に、どうも自分のことを「変な奴」「オカシナ奴」と思っていたようだ。本当の彼は、何とも魅力のある「変な奴」であり、思わず笑みがこぼれ落ちそうになるほど可愛らしい「おかしな奴」なのに、誰もそれを彼に伝えていなかったようだ。 そんな彼は、この2年間がむしゃらに頑張り続けていた。そんな彼が少し回りを見る余裕を持てたときに、映画の講習会を受講するという機会に恵まれたのだが。たった12日間という短い間だったとはいえ、外に出てみて、上田学園以外の色々な人たちと交流する中で、少し自信をつけたのか、ホットしたのか、切なくなるような笑顔を向けて話す彼に、そこに居合わせたジュニアやハチマキ君と大笑いしながら、なんだか胸が痛くなった。 上田学園の夏休みは続く。でも教科によっては夏休み中も授業が続いている。上田学園には「夏休み」とカレンダーに書いてあっても、夏休みにしか出来ないことをやるための夏休みだから、毎日学生たちが通ってくる。「家で勉強するより、ここの方が勉強しやすいし」と言いながら。 平野ジュニアは毎日午後から学校に来て、おっちゃんが描いて送ってくれる絵本用の絵を、各担当者に送ったり、夏休みも続行しているリサーチの授業の調べ物をしたり、見上先生から出された課題、NHK語学講座のイタリア語に取り組んだり、時々友達とゲームをしたり。こんな忙しいスケジュールの中「やっと少しだけ、ほんの少しだけ、なんとなく授業内容が分かるようになって来ました」とのんびりと言い、そんな彼を他の学生たちが「ちょっと山が動き出し、リサーチにも変化が出てきたみたい」と感想を言う。 田舎から帰ってきたハチマキ君も頑張っている。時々「考えすぎちゃうんです」と笑いながら。そして暑い中、チェリンの相棒の大チャンが来ないので、平野ジュニアと一緒に成チェリンに付いて「象のはな子」の撮影に出かけて行く。 上田学園の夏休みは普通の学校の夏休みでは、ない。夏休みだからこそ出来ること。普段より時間をかけてじっくりやる期間。でも「上田学園は他の学校とは“違う”ということは、分かっているつもりですが、“夏休み”と言われると『夏休みだから自分の自由なことをする権利がある』と誤解したくなるので、来年から“夏休み”という名前にしないほうがいいと思います」と、学生たちから注意された。だから来年からは「特別実習期間」または、「個別実習期間」という名前にしようかと考えている。確かに、「上田学園を卒業したら2・3年フリーターをして・・」等という計画をたてていた学生や、頭だけでものを考えようとする癖のある学生には「夏休みの期間中、土方をすること」などという宿題を出し、学生たちは朝4時くらいから色々な工事現場や引越し屋さんで働き、実践を通して考えさせることを夏休みの宿題にしていたこともあるからだ。 それにしても上田学園は面白い。「俺、やばいかも?」と言いながら「俺、天才かも?」と心配する学生。そして本当にそうかもしれないと思えるような「ある日」が突然、どこからかやって来る。それがいつ来るかは、分からない。でも絶対来るのだ。それはまるで「これから大きく成長開始を始めさせて頂きます」とでも宣言するかのように。 そんな彼らを見ていると、卒業するのが3年が4年になっても、5年になってもいいと、つくづく思う。それまで、例えどんなにゆっくりでも、立ち止まらず動いてさえいてくれれば、絶対「ある日突然」のその日がやって来るからだ。卒業したくなくても、上田学園を学生の方が必要としなくなる日が、絶対やってくるからだ。 上田学園の先生方に、頭が下がる。この暑い中、忙しい仕事の合間を縫って飛んできて指導して下さる。そんな先生の下で学生たちが変化していくのが見える。それを確認するたびに、感激し、先生に感謝し、そして「いつか子供たちが上田学園に代わって先生たちにお返しする日が来るだろう」と勝手に想像している。 小さな小さな上田学園。「俺、天才かも?」と自分に思わず聞いてしまう学生から、「こんな学生に会うと、ホットするね」と言いたくなるほど、真摯に自分の道を一生懸命歩もうとする学生まで、個性のまったく違う、でも「天才かも?」とまでは思わないまでも「何かもっている」と思えてしまう面白い学生たち。そんな彼らに囲まれて、この暑い夏をなんとか乗り切ろうと上田学園は頑張っているのだが。 「俺、天才かも?」
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