●学園長のひとり言

平成19年3月27日
 (毎週火曜日更新)

学 び

上田学園の姉妹校であるレッツ日本語教育センターで日本語を学んでいる方に、チェさんという韓国人の学生さんがおります。

彼は見た感じはとても若く見えますが、あまり若くはないそうです。そんな彼はカトリックの神父として日本に赴任にして来、今一生懸命日本語を勉強しているところなのです。

彼は1日5食から7食分のお弁当を持参して高校へ行き、大学入試に備えてもなかなか入学できないことでも有名な韓国の工科大学を卒業後、神学校へ行き、神学の勉強をし、神父になったそうです。

そんな彼のことです、勉強の仕方を知っているのはよく分かりますが、本当によく勉強をしてきます。30数年、日本語教師をしておりますが、彼ほど授業を受ける前に完全に予習をし、自分のものにして授業に臨む学生さんに会ったことがありませんし、彼ほど先生の仕事を理解し、受身の授業ではなく、自分のしたい授業に授業自体をもっていける学生に出会ったのも、初めてのことです。

彼は、普通の学生が1年で仕上げる教科書も3ヶ月くらいで終えてしまいます。それもしっかりと自分のものにして。そんな彼と新しい教科書と授業の進め方のことで話し合いましたが、その時に彼が言ったことは、自分で出来ることは全部自分で勉強してきますので、授業では自分だけでは出来ないことを教えてくださいと言うのです。

例えば、語彙の使い方とか、文法の間違いとか、発音矯正とか。そんなことを重点に置いて教えて欲しいと言うのです。そして、教科書はなるべく易しいものがいいというのです。

「もう中級なの」と驚かれるより、例え表紙に「初級」と書いてあっても、内容が自分にとってベストならそれで良いというのです。そんなことより、今のレベルよりほんの少し上のレベルの教科書で、しっかり勉強し、自分のものにしてしまえば、自然に次のレベルに行きたくなるし、次のレベルに当然行けているだろうし、「勉強は、人に格好良く思われるためにするのではありません。自分が納得できるようになるためにするのです。自分一人で勉強がやれるようになるために、勉強するんです」と言うのです。

彼の話を聞きながら、ふっと上田学園の学生たちのことを考えてしまいました。

宿題も全くしないで、タダタダ人にあっと驚いてもらいたいがために「アラビア語をやっている」とか、「ヒンドゥー語の勉強をしている」とか言い、実力以上に「自分は頭がいいんだ!」と誇示したがったり、基礎学力がないからと、優しい本を選択すると、「こんなもん!」と言ってやりたがらなかったりします。また「じゃ、ちょっと難しいけれど」と言って選択した本は「難しすぎて分からない」と言って、「分からないから教えてください」とも言わずに、何となくその授業に出席しなくなってしまいます。その延長で学校にも来なくなってしまった学生もおりました。

分からないから授業に出るのです。分からないから勉強するのです。だから分からなくて当たり前なのですが、でも分からないということを先生に伝えなければ、いつまでたっても分からないことが分かるようにはなりません。だから、いつまでたっても興味の持てるもの、興味が持てそうなものが増えないのです。

興味の持てそうなものが見つからないのはその所為なのですが、学生も親御さんも、それについては無視します「子供が興味が持てないと言っていますから、無理に興味の持てないものをやらせたくないのです」とか言いながら。

韓国人の学生のチェさんは、5週間位吐き気がするほど「日本語の基礎」を勉強し、日本語の勉強の仕方をある程度学んでから、マイペースに勉強しながら、でも手抜きもせず、上手に先生を利用し、先生がいなければ出来ないことを学んでくれております。それも自分の意見は明確に述べますが、決して意固地ではなく、むしろ素直に先生の言うことを聞きながら、一生懸命勉強をします。

上田学園の学生たちにも、彼のような考えで授業に臨んで欲しいと考えております。またそうすると効果的な勉強が出来ると、アドバイスもしております。何しろこれだけの人材がそろっている学校は、まれだと思うからです。

生徒の数より、先生の数が断然多いし、毎日何かを見、何かを感じながら第一線で仕事をしている先生です。質問すれば質問するほど、色々な答えを返してくれます。それも体験から出たご自分の考えと言葉で。だからこそ、分からない自分を恥じるのではなく、分からないので「質問できてよかった」というふうに考えられ、受身型授業ではなく、生徒主導型授業が当たり前に成り立つようにしたいと願っているのです。

春学期の準備で一番心を砕くことは、どんな授業を取り入れようかということですし、どんな科目にどれだけ時間を割けるかということです。

それは生徒の顔ぶれと、卒業していった学生たちのアドバイスなど、色々なことを考慮しながら考えていきます。また、学生たちが一番苦手なコミュニケーションを成立させる一番の近道である「何故?」「どうして?」「なぜかと言えば・・・」「どうしてかと言えば・・・」の会話が成立するWhy と Becauseが言える学生を育てるためにも、また今学期こそは早いうちから「生徒主導型授業」に移行できるように、只今授業計画の立案中です。

 

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