●学園長のひとり言 |
平成19年5月9日 夢に向かって
ボクサー名城信男の世界タイトルマッチの入場券を「頂いたので」と先生からのお誘い電話に、観にいかれない学生から電話がはいる。親の反対を押し切って働きながら上田学園で4年目の勉強を始めたオギッチからだった。 週に5日間のバイト。遅刻をしなかった彼が、遅刻をして「すみません!」と飛んでくる。時々、授業中に居眠りをして注意されている。まるで新聞配達をしながら授業に出ていたころの成チェリンのように。 オギッチはやらなければいけないことは、しっかりやってくるが、アルバイトをしながら通える大学とは違い、結構ハードな上田学園の授業と宿題。アルバイトに時間がとられ宿題の内容もだんだん「やった」という事実だけがやたらに目につくような宿題になり、担当の先生方が心配してくださる「これじゃ、4年前の入学当初に逆戻りのような宿題ですね」と。 上田学園の勉強は自分のための勉強だ。担当している先生方がいい気分になるための勉強ではない。その場だけ、やったように見せる宿題や、理解したように装うことは「よし」とはしていない。分からないことは、分からない。理解できないことは、理解できないということを正直に話し、教えを請うことが上田学園の授業の第一歩なはずだ。 自分の夢を追うために選んだ4年目の上田学園。時間だけがバタバタと過ぎていく。そのために、彼が過去3年間の勉強でやっと身につけた、彼が人生を一人で歩んでいくときの武器に育つだろう芽がつぶれていくことを、皆で心配している。 親が一生懸命やってくれていたころのことを、彼はよく理解している。親との最後の話し合いのとき、親から「何が不満なのか?これもやってあげたし、あれもやってあげたのに」と言われ、返す言葉がなかったそうだ。そして「ちゃんと親と話し合ってこなかった自分が悪いのだけれど、親がそんなことを考えていたとは気付かなかった」と言い、「反論もなにも、言葉にだせませんでした」と言っていた。 色々な理由で自分の考えを言葉にすることの苦手なオギッチ。どうせアルバイトをして苦労しながら生活するのだから「一番苦手な仕事をしたほうがいい」という皆の意見を聞いて、コンビニのアルバイト。 接客で一日お客様にニコニコしなければならず、顔に笑顔が張り付いたようになり、「疲れた!」を連発している。そんなオギッチに門ちゃんが「最近のオギッチ、歯をむき出しにして笑うことが多くなったね。どうしたの?」と質問。「だって怒りながら接客は出来ないから、笑う癖がついてきた」と言いながら、こみ上げてくる笑いを自分でもどうすることも出来ず、無理やり押しとどめるようにでも、にやっと照れ笑いをする。 人をにらみつけるように見る癖のあったオギッチが、目を細めて楽しそうに声をあげてよく笑っている。それでストレスを発散しているかのように。そんな彼を他の学生たちも先生も応援している。そしてあの張り付いたような笑顔で接客してる様子を見るために「コンビニ イン オギッチ 見学ツアー」を組んで、全員ではコンビに悪いので、時間差で見学に行こうなどと学生たちが話している。 授業が終わると、急いで99円ショップに買い物に行き、帰ってくるとその日の夕飯と、次の日の昼ごはんを作り、そしてアルバイトに飛んで行くオギッチ。今日も昨日と同じように、彼は夕飯を作ると「行ってきます!」とアルバイトに飛んで行った。張り付いたような笑顔で接客をするのだろう、彼の夢の達成のために。 |