●学園長のひとり言

平成19年6月19日
 (毎週火曜日更新)

忙しいことは、いいことだ!


世の中の忙しい方々と同じように、上田学園の学生も、宿題に調べものに、本当に大忙しの毎日をすごしています。受験以外でこんなに勉強するのは、上田学園の学生たちにとって初体験だということは、想像に難くないことです。それに負けそうになるのを一生懸命頑張って努力している学生たちを見ますと「ここに本来の学生の姿ありき!」という誇らしい気持ちになります。何もすることがなくて「暇なんだよ」と言い、「つまらない!つまらない!」と連呼する大学生たちを、心から気の毒に思ってしまいます。目的もなくただ「就職のために」と行きたくもない塾などへダブルスクールをする学生を見ると「そんなに授業が暇なの?」と考えてしまいます。

とはいえ、私は思います。「〜すぎ」にはいい意味はありません。食べすぎ。飲みすぎ。勉強のしすぎ。でも、時には「〜すぎ」もいいことです。

オギッチが親から卒業して一人で生活をはじめて数ヶ月が過ぎていきます。それも自分で稼いで、自分で生活し、そして上田学園を続けていくという道を選択して。勉強には勿論「手抜きをすることなく」という努力をしながら。

手抜きをするつもりがなくても時間に追われすぎて、時々居眠りが出ます。目を開けていることに痛々しいほどの努力をしております。そんな条件の中での勉強です。無意識に手抜き状態に陥ってしまう現実は、仕方がないと考えております。上田学園の勉強がヨーロッパやアメリカの大学のように、自分で調べなければ授業が何も進まないというのではなく、出席してもしなくても卒業できる日本の大学のようなら、オギッチも「楽なのにネ」と同情をしてしまいます。

上田学園の3年間で色々なものを取り戻し、やっとスタートラインに立つことが出来た今年。今までと違った自分の将来にたいする思いで始めた、一人で生きるための「自分探し」。それを支える生活のために頑張る彼に、他人が出来ることは、ただただ応援することだけです。

毎日てんこ盛りの失敗をしながら頑張るオギッチを見て、他の学生たちが「うちの親に感謝しなくては」と口に出して言い始めております。「お金はいくらでもあとから返せる。でも勉強できるチャンスはありそうでなかなかない。だからこそ勉強させてもらえるうちにさっさと勉強させてもらって、自分の進む道をみつけて進んで行きなさい」と、幾ら口をすっぱくして説明してもなかなか気付かないし、学校に行けることで親に感謝することがなかった学生たち。学生の皆がお互いの状況を通して毎日「気付き」をしております。

勿論オギッチにもそんな時があります。他の学生たちの問題を通して「俺の母親は、思っている以上にいい親かも知れない。どんなに忙しくてもご飯だけはきちんと料理してくれたから」と言ったりして。

人の5倍も不器用な彼が、バタバタと駆けずり回っています「時間がねぇー」と言いながら。そんな彼に「ちゃんと親に連絡しているの?」と聞くのが私の日課のようになっております、それも毎日。そのたびに「うるせえなー」という顔でにらまれ、そのたびに「もうチョッと優しい目で見てよ」と頼む私に急に目じりを八の字に下げて、彼の顔からこぼれるような笑みが浮かびます。そして鼻をピクピクさせながら一言「親に割く時間は、ねぇー!」と。

朝一番「先生有難うございました」と、オギッチ。先週の土曜日に授業の後でヒロポンと合同の誕生日会。法事で出席できなかった私に御礼を言ってくれたのです。そんな彼に「今日は本当の誕生日ね、お誕生日おめでとう!」と握手を求めて差し出した私の手に握手を返したオギッチ。「何時ごろ生まれたの?御両親は嬉しかったと思うわよ」と言う私の言葉をさえぎるように「知らねぇー、そんな話聞いたこともねぇー」と。そして「『生んでくれて、本当にありがとう!』と、御母さんにメールでもしたの?」と言う私に「忙しいから、しない!」と、愛嬌のない返事。「お母さんの淋しい気持ちよく分かる。『男は愛嬌!』」と連呼する私に、いつものように鼻をピクピクさせ、笑いをこらえながら、宿題の続きに没頭していくオギッチ。

忙しいことは、いいことです。そんな私たちのやり取りの横で、ジュニアが宿題に没頭しています。「分かんない、分かんない、自分がなにやっているのか全然分からないし、おまけに何が分からないかも、分からないんです」と悲鳴をあげていた一年前が嘘のように、悲鳴を上げる時間が「勿体ない」とでも言いそうな真剣な顔で。

「こんにちは!」と明るい顔でハチマキ君。彼も宿題を終えるために休みの学校へ。門馬ちゃんは今ごろ家でコンピュータと格闘していることでしょう。

新入生のねもっちゃんは、今まで学んだことがない方法と授業内容に戸惑っている状態のときなのに、体調もいまいちです。でも今年一年は、「そんな自分の体調と、どう共存しながら勉強を続けるかを模索する時期だと、私たちは考えているので絶対焦らないでね」という私たちの言葉を受けて、彼女のペースで授業に参加できるように努力をしています。

一般社会から考えたらまだまだ発展途上中の学生たちですが、それぞれがそれぞれの忙しさの中で、でもちゃんと自分を振り返りながら色々な気付きをし、頑張っています。

昨日まで全く手も足も出なかった授業にちょっと「手が出せた!」と喜び、「学ぶ」ということの意味を少しずつ理解し、頑張る学生たちを嬉しく思い、私も「頑張らなくちゃ!」と自分のことも含めて応援しながら、忙しく時間に追われる毎日を何とか楽しもうと、努力しております。

 

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