●学園長のひとり言

平成20年01月07日
 (週1更新)

初  春

2008年が無事スタートしました。
ここ数年間は、暮れの30日か31日まで仕事をし、それから自宅の掃除をして、時間切れ状態で「右のゴミも左のゴミも全く目に入りません!」と自分に言い聞かせながらバタバタと新年を迎えておりましたが、今年は何年ぶりかの穏やかで静かなお正月を迎えることができました。

昨年を振り返りますと、心に残ることや嬉しいことがたくさんありましたが、それでも、楽しいことやいいことばかりではありませんでした。

学生のことで先生方や応援して下さる方々にご迷惑をおかけしてしまったことも多々あり、上田学園で学生たちに一番学んで欲しいことが学べていない事実と向き合い、上田学園を継続していていいのだろうかと本気で考えてしまったこともありました。でもその楽しいことでないことや良いことでないことが、上田学園の今までを反省する大きな材料になりました。また、その問題を通して停滞気味だった在校生たちが話し合い、協力して問題解決に当たり、それが彼らの成長を促すきっかけにもなりました。そんな彼らを勇気づけたのは卒業生たちの存在でした。

「学生を見捨てないで」とか「継続は力」とか色々な言葉で、問題を受け入れ頑張っている私たちを励ましてくれた卒業生たち。そんな彼らの口から「俺たち酒飲みながら良く話すんですが、上田学園は仕事で疲れた心を癒してくれる不思議な場所なんですよ。どんなに大変なことがあっても、学園に行き先生方と話していると『こんなこと、たいした問題じゃない』と思えちゃうんですよね」と。そんな卒業生たちの言葉は萎えた心を大きく暖かく包んでくれ、大変な時期を乗り越えることが出来ました。

生島ヒロシさんのラジオ番組でも度々お話をさせて頂きました。そのリスナーの方が出版社の関係者で、それがきっかけで私にとって2冊目になる本を執筆させて頂きました。また、視聴者や読者を通して「遠くの出来事」のこととして漠然ととらえていた現代日本の抱える社会問題について、改めて直視させられ、「日本はどうなってしまうのだろうか?」と何度も考えさせられました。

総合学習の一環として、また自分の人生で「騙した」「騙された」という言葉を言わずに済むようにと取り入れた株の授業。その授業の先生からのお勧めで参加した月一回の「投資の勉強会」。色々なご経歴の方々が集まるその勉強会で、思いがけず上田学園の話をさせて頂くチャンスがあり、それがご縁で「投資の神様」と呼ばれている“さわかみ投信”の社長、澤上様と対談する機会にも恵まれました。

上田学園の先生方が「あの澤上さんと対談したの?」と驚かれ、うらやましがられましたが、そんなに有名な偉い方とは存ぜず、好き勝手にお話をさせて頂いた対談でしたが、それでも「教育とは何か?」を改めて考えさせられました。また対談の載った雑誌を読んで、色々な方から声をかけて頂くようにもなりました。

不思議な1年でした。
チャンスもたくさん頂きましたが、そのチャンスが色々な理由で生かせず「卒業生や在校生たちの大きな自信につながる又とないチャンスを潰してしまった」と、何とも生徒たちに申し訳ないと思ったりもしました。でもそれが「学園で勉強するのが止められない!」と学生たちに言われるよう、21世紀に合った学びがもっと出来る学園にするために、「どんな努力も惜しまず実践していこう」という覚悟を、改めて自分に確認する大きなエネルギーになりました。そんな中、頭のなかで長い間もやもやしていた、自分の時代だけ利益が上がれば“よい”という目先の利益だけを考えるのではなく、100年後200年後の日本や世界を考え、利益率は低くなるが、これをやらないことで自然環境を守り、無意味な人的資源や技術の流動や消滅をストップさせ、国内外の企業が生かされるという考え方が自然に出来る「品格のある企業人」を育てたい。そのために大学レベルの学校を数年後に創りたいという思いが、頭をもたげてきました。

品格のある企業人を育てる教育とは、決して世界を制覇するための企業人のリーダーを育てることが目的ということではありません。何故ならば、どんなレベルの教育も、教育は道具の使い方を教えることだからです。その道具を使って大企業の経営者になるのか、中小企業の経営者になるのか、または単に一企業人になるのかは、個々が決めることで、決して親や学校や他人が決めることではないからです。まして渋沢栄一ではありませんが、「お金は仕事の垢」。仕事で世界を制覇できたかどうかは、一生懸命やっていたら「そうなった」だけの問題であり、そのことよりむしろ、その道具をどういう考えでどう使うかに、学びの大きな意味があると考えています。

上田学園は小さな学校です。大変さはいつも続いております。でもその大変さの中に、心をほっとさせてくれる時間や、大きな声で笑い合える時間、「やっていてよかった!」と思わせてくれる純粋で可能性をたくさん秘めた学生たちが刻々と成長していく様子など、名誉やお金に換えがたい喜びが多々あります。その喜びは、大小に関わらず、どんな苦しみも、楽しいこと、嬉しいこと、感謝すること、反省することを心から美味しく味わうための、人生を豊かに過ごすための、“薬味”として存在していることを、苦労を乗り越えるたびに気付かせてくれます。だからこそ、大学レベルの学校を数年後に創りたいという夢を追うことができるのだと思うのです、例えどんなに不可能なことであり、大変なことであっても。

上田学園の学生たちは本当にユニークで面白い学生たちです。また、観察しがいのある学生たちです。何しろ学生が変化を始めると、未来への可能性が0パーセントから100パーセントになり、着実に上昇していくからです。それも世間からすると最悪と思われる条件の中で。おまけにその変化が「さっさと始めていたらよかったのに」と思うほどスロースターで始まっても、「もう遅い」と言われる時間切れ寸前の卒業式のその日の、最後のその瞬間まで学生が変化をとげていき、その様子が卒業する最後の最後の、その瞬間まで確認できます。それは、そのまま変化を重ねて確実に社会で実績を作っていくほどの大きな意味のある変化です。

2008年がはじまり、今年の3月に卒業する学生や親御さんにとって在籍は「後3ヶ月しかない」という不安で一杯なお気持ちでいるだろうことは想像に難くないのですが、私たち教師陣にとっては「まだ3ヶ月もある」という思いが強く、学生でいられるその最後の日の最後の一瞬まで学生でいることを謳歌するようにと言い、就職活動は卒業してからでも、「十分間に合うから」と言い続けております。

普通の学校は「入学が決まった」とか「就職が決まった」ということを以って卒業ですが、上田学園は在籍している間に結果を出すことを目的に設立されておりません。在学中に色々な道具の使い方を学び、それを持って、社会で“知恵”を働かせながら自分の周りの同僚や上司が仕事しやすいように、傍の人間を“楽”にさせるという本来の“働く”の意味を実践し、どう人のために役立つ人間になれるかを一生かかって学ぶと同時に、仕事人として、自分の納得する結果を自分で出すことが、個々に課せられた義務だと考えているからです。

本来「教育をする」とは、そういうものだと思うのです。そんな思いに勇気を与えて下さったのが、思いがけないことで対談をさせて頂いたさわかみ投信の澤上様が「長期投資仲間通信“インベストライフ”」という雑誌の11月号にお書きになった「作物の実りを楽しむような投資」という記事でした。

その記事には、澤上さんがアメリカのペンシルバニア大学のウォートン校を視察したときのことが書かれておりました。その中で澤上さんは、企業を育てる株式投資の王道とは長期で構えることであり、それはまるで作物を育てて秋の収穫を待ったり、木を育てて森を作っていったりの作業にじっくり時間をかけて取り組んでいくことと同じであり、豊かな実りはお天道様からのごほうびのように後からついてくるものだとおっしゃっています。

投資の勉強会には出席しておりますが、投資には全く無縁で、あまりというより、ほとんど理解できていませんが、それでも人材を育てる教育も、企業を育てる“長期投資”も同じだということは、納得ができます。そして、澤上様の記事を読みながら「だから品格のある企業人を育てる学校を、海外に外注するのではなく、この日本で創りたいのよね」と独り言を言いながら、思わず拍手をしてしまいました。

教育とは、社会に出て役にたつ道具の使い方を教えるものですが、それと同時に、自分の利益のみ追求する人間ではなく、社会のお役に立つ人間をじっくり時間をかけて育てるものだと考えております。そのためにも、頭でっかちの人間的魅力の乏しい人たちから学ぶのではなく、生徒の生き方に大きな影響を与えることの出来る、色々な経験を積んだ、生き様の素敵な先生方から学ぶことが重要になると考えております。そして「豊かな実りはお天道様からのごほうび」という澤上様の言葉通り、教育の成果は「ごほうび」として社会に還元されるのです。社会に還元されるということは、結果、個人に還元されることを意味します。もちろん、本人や親や先生にも。だからこそ、小さいときから大金を出し、「養殖東大生」を養殖するかのように塾に行かせ、心のトレーニングを置き忘れたことにも気付かず、超一流大学に「入学したから」、超一流大学を「卒業したから」と、すぐに見返りが自分たちに来ると考えるのは、間違っていると思うのです。

上田学園の学生たちは、大きな影響をあたえてくださる先生方に囲まれて、自分のテンポで確実に前進しております、それも色々な方法で。

昨年の11月の終わり頃から、アルバイトをしている学生の休みの日の火曜日の授業後、2時間と時間を区切って上田学園“赤提灯”を開店しました。

お酒の飲める学生は一杯のお酒と、飲めない学生は一杯のジュース。そして一人100円ずつ出し合って買ったおつまみをつまみながら、小さいときの話、学校の話、家族の話、失敗談など、普段話さないようなことまで踏み込んで色々な話をしております。その中で、学生たちの小さいときの写真が見たいということになり、まずハッチとヒラノッチの二人の学生が、小学生から中学生時代の写真を持参してきました。それも、信じられないように可愛いくて、顔中笑顔で一杯あふれた素敵な写真を。その写真を見ながら解説してくれた彼ら二人の幼き頃の話しに、思わず大笑いをし、今までにないくらい自由で素直に自分の過去に向き合いながら、上田学園の2007年が楽しく過ぎていきました。

個々によって変化の差はありますが、日夜、今をしっかり生きていることを証明するように、昨日より、今日。今日より明日と、前進する上田学園の学生たち。もう一度幼い頃にもどり、堅く古くなった垢をこすり、呼吸しやすいようにして、2008年も彼らのテンポで素直に前進してくれることを願っております。

今年最初の上田学園“赤提灯”は、根もっちゃんとオギッチが持参予定の“幼き頃の写真”を見ながら、1月15日に開店します。

今年最初の授業は明日からです。学生たちは、買い付けのためヨーロッパの展示会に行く企業の方々を御案内して「添乗員アシスタント」としてドイツに出かけます。お正月返上でバタバタと準備をしていた学生たちの緊張した横顔を10日振りに目にして、「また顔が少し成長している」と気付かされ、心がうきうきしております。

2008年の上田学園。昨年末に、長い間の念願が叶って「モータースポーツ」の編集の仕事に就けるということで3ヶ月早く卒業していった門ちゃんと入れ替わるように、今日から22歳になる新しい学生が入りました。

月日の経つのは早いもので、今年は海外の大学(イギリスとタイ)で勉強していた学園OB二人が、大学を卒業して帰国してきます。二人とも日本で就職をする予定です。

どんな時もどんなことも、先生方をはじめ色々な方々に助けられ、学生たちの笑顔や、卒業生たちの信頼で乗り越えてこられた2007年。2008年もどん日々が待っているのかと、楽しく考えております。これも皆様のおかげです。

今年も色々御迷惑や御心配をおかけすると思いますが、学生共々、一生懸命頑張りますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。


平成20年1月7日
  
                            上田学園園長   
上田早苗 


 

 

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