●学園長のひとり言

平成20年04月24日
 (週1更新)

ほのぼの暖か卒業式

 

新学期が始まって2週間。いつものようにオリエンテーションが終わり各自の今学期の目標も決まり、そして授業もスタートし、少し遅れて新しい学生も入ってきた。

例年以上に自分たちで考えなければいけない「気付き」の授業が多いが、時間があっという間に過ぎていく。そんな中、学生たちの口から「荻原さんがいないので、変な気がしますね・・・、ちょっと淋しいですね・・・」という言葉が頻繁に聞かれる。

オギッチは上田学園に4年間在籍した。変な奴(?)で、入学当初は何か言いたいことがあると私の周りをぐるぐる回っていた。「どうしたの?」と聞くと、「ううん・・」と言いながらおもむろに単語だけ並べるように話し出した。人とのコミュニケーションをとるのが大の苦手のようだったが、時間が経つにつれ「本人はそうでもないのかも」と思えるほど、パンチの効いた言葉をたくさん連発しながら他の学生たちとの交流を楽しんでいた。

そんなオギッチの話し方はいつの間にか「オギワラ語」と生徒間で呼ばれ、各生徒たちの心の内に「オギワラ翻訳機械」が設置され、あまり誤解もしなくなり、誤解から必要以上に心を傷つけられることもなくなり、それと同時にオギワラ人気が上昇していったようだ。

正直で、男っぽくて、ストレートな意見を言い、どんな汚い仕事でも一生懸命やってくれる不器用なオギッチ。そんな彼の人気度を証明するように彼の卒業パーティーはとても暖かい、楽しいものになった。

パーティーの一週間前に築地に全員で下見に行き、食材を捜し、パーティー前日に買い求めてきた魚や貝。それにわざわざ取り寄せた美味しい肉とで始まったガーデンパーティーは、お庭を共有する新しいお隣さんもお迎えしての楽しい集まりになった。そして圧巻は、パーティーの最後にオギッチが各先生たちへの感謝の言葉は勿論だったが、各生徒一人一人の名前を呼んで、一人一人に丁寧にお礼を言ったことだった。

思いがけないオギッチの行動に「4年間預からせてもらってよかった!」という思いと、預からせてくださったご両親様への感謝の気持ちでいっぱいになった。

そんな思いがけない行動をとったオギッチに、これも思いがけず各生徒一人一人から心のこもったプレゼントが贈られた。それも偶然各自が準備していたというプレゼントが。

上田学園では、人を思いやる言葉や心遣いは当たり前に出来るようにと、結構厳しく注意するし、注意をあまりしないでも気付かせたいという思いで、「私からの相談事」として相談に乗ってもらうことで気付かせるようにしているが、物のやりとりは別ものと考え、強制は絶対しないことにしている。それでも自主的に各生徒たちが考えたプレゼント。それも手作りであったり、一生懸命捜して買い求めたりと、それぞれの考えで準備したプレゼントにはオギッチのためにとても嬉しいものだった。

オギッチは今年1年間、自分の将来の仕事にむけて色々な体験をしながら、自分の考えをまとめていく予定でいる。そしてその間、真希先生の最後の授業で先生を感涙させるほど素晴らしかった彼の朗読。また彼の色彩感覚の素晴らしさなど色々考え、舞台美術の方向へいくことも考え、先生の舞台もお手伝いすることになった。

オギッチがどの分野に自分の生きる場所を定めて行くのかは、分からない。でもこの1年間、彼はきっと彼なりの努力をしていくだろう。そんな彼をじっと見守っていこうと決めている。「なにかすごいものを持っていることは分かるんだけど、それが『何?』と言われると分からないんだな。でも今すぐ分かることは、何とも憎めないいい奴で、不思議な魅力のある奴なんだよね」と言う先生たちと一緒に。

「オギッチ、顔を出しませんでしたね?」
ふっと一生懸命調べ物をしていた学生の一人が言う。それを聞いた他の学生たちもコンピューターの手を止めてうなずいている。そしてまた自分の仕事に没頭していく。卒業式の日のように暖かで、でも静かな時間が流れていく。自分の仕事に没頭しながら、頭のどこかで面白いオギッチのことを考えながら。

 

 

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