●学園長のひとり言

平成20年07月19日
 (週1更新)

皆に大切なこと

 

逃げる、逃げる。逃げる口実を探して、問題から背を向けて逃げる。チョッと立ち止まって考えない、「俺、なにしてんだろう?」とは。

「僕は病気なんです。初めて人と会うとき、落ち着かないんです。何しろ病気だからです」

「自信がないんです。何しろ高校を中退して勉強していないから。絶対ダメです。僕みたいなのは上田学園の勉強についていけないと思います」

「じっと座っているのが苦痛なんです。心療内科の先生に『病気だ』とかで薬を飲むように言われましたが、絶対飲みません。18歳から今までずっと飲まないで頑張ってきたんです。だって薬は体に悪いし、結構僕、健康オタクなんです」

社会に出ない理由、学校に行かない理由、仕事をしない理由などを、何がなんでも探し出し、屁理屈のような理由をこねくり回して“今”にしがみ付こうと悪戦苦闘している。

人から悪い印象をもたれたくない。「みっともない」と思われたくない。そればかりを考えてか、自分が正当な理由で行動していると、自分には勿論他人にも納得してもらいたいのか、自分がとっている行動を何とか正当化できると思われる理由を探し、もがいている。そんなことをやっていることが一番、他人にはみっともなく見えることも、勿論気付いてはない。

世の中は動いている。年齢も成長している。動いていないのは自分と、自分が留まっている環境。その環境も、実は目に見えないテンポで動いて変化している。怖いのだろう、その事実を知ることが。

「僕のこと、どう思いますか?わがままだと思いますか?」と質問が来る。そんなこと聞く必要がないだろうと思いながら、返事の代わりに思わず大きなため息が出そうになる。

学生が一人ひっこんでいる。何か理由は分からない。宿題が出せなかったり自分が“正しい”と思うような答えが見つけられなかったりすると、自分のことが許せなくなるのだろう。頭もいいし、悪い人間ではないのだが・・・。小さいときからそうだったという。

あまりにも長い間プー太郎をしすぎたのだろう。何もしないでいることに慣れすぎてしまい、目の前にあることを自分のテンポでやり終えることで問題解決の糸口がみつかるのに、それは絶対しようとしない。そして何か問題が起こると逃げ出す、色々な理由をつけて。それも、そんなことに誰も気付きもしなければ、気にもとめないし、まして感心など全く持てないような問題を「大変だ!」と考え、相手が根負けするまで、「精神的ダメージ!」という専門家以外手を出したくても手が出せない領域に逃げ込んで全く動こうとせず、相手が根負けしてプー太郎でいることを認めたとたん、ゲームセンターやお気に入りの場所を見つけて遊びに出かけて行く。

この世に存在する全ての生き物には、限られた時間しか与えられていない。その与えられた限られた時間内でどう生きていくのか、どう楽しむのか、それは個々の考え方に関わってくる。考え方一つで自分の人生は大きく変えられる。

若くて、健康で、頭もよく、見かけも悪くなく、お金も十分あり、親の愛情が余りあるほど注がれているというのに、それ以上何が不足だというのだろうか。不足しているのは、自分で自分のことが好きになれないことであり、誇りに思えないことだけなのだが。

本当に自分が大切で大好きだったら、「努力すれば、いつかあそこまで出来るようになるんだな」等と考えるときの“反面教師”として他人をとらえても、決して自分をイジメル材料にはしないし、まして「人からどう思われるか」などということを考えたときの“判断基準”にはしないと思うのだが。むしろ、自分を愛しているからこそ、自分が大好きだからこそ、自分の周りの人間を悲しませたり困らせたりすることは「出来ない」と考えるのが普通だと思うのだが。

「自分を認めてくれないんです」「僕のしたい仕事をさせてくれないんです」「給料が安すぎるんで、仕事をするのが嫌になるんです」「有名な学校じゃないから、生徒がバカが多くて学校に興味がなくなったんです」などと言いながら「相談」という名目で自分の考えに同意を求めてくる相談者たち。彼らのことを考えるたびに、「問題から顔を背けないで!」「事実から目をそらさないで!」と叫びたくなる。

どんなに時間をかけて、何もしない自分のことを正当化できる理由を他人の意見の中に探しても、全くの時間の無駄。今という時間は今しかないし、時間は自分のところだけに留まってはくれない。だから悩むのなら人の意見を聞くだけではなく、聞いたものを自分の知恵に変えて行動しながら悩んで欲しい。自分の問題を自分一人で解決できなかったら、正々堂々と他人の手を借りてそれを杖やエールに変え、何度も挫折しながら自分の足で一ミリの歩みからスタートして前進していって欲しいと、願わずにはいられない。

世の中は自分の思うとおりにはならない。生きていくということはある意味、「毎日の挫折からの生還」という人間に課せられた大きな課題をクリアーしながら、自分を大きく成長させてくれる“経験”というハードルの上に積み上げられていくものだろう。それだからこそ、皆が大切にしていかなければいけないことは、どんなにゆっくりでもいい、自分を放棄することなく行動し、前進していくことなのだ。

上田学園の学生に言いたい。あなたたちが主人公になって世界を動かしていくだろう20年後30年後の世界。誰にも予測できないことがたくさん起こるだろう。そしてその中で挫折をし、そこから学び、生還しながら人生を全うしていかなければならないだろう。それが生きるということでもあるからだ。

先輩のいない21世紀。年齢に関係なく、君たちをも含めた現代人が一斉に体験する初めての21世紀の毎日。どんなことが起きても生きていけるように、1日1日を大きな目と正確に聞き取る耳を大切な友とし、自分の頭でしっかり学び、考え、行動しながら生きていって欲しいと願う。それが、どんな時も、どんな状況になっても、誰にも取り上げることの出来ない君たちの大きな知恵袋になると信じているからだ。その知恵袋は、布団の中や自分の部屋の中だけでは育てられないし、育たないという事実から目を背けることなく、挫けそうになったり逃げ出したくなったら、そのときこそ逃げ出す代わりに、家族・先生・友だちに支えられながら前進していって欲しい。私たちはそのために何時も君たちの側にいるのだから。

 

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