●学園長のひとり言 |
平成21年5月4日 あっという間に、春学期が始まった。とはいえ、誰も休みたがらなかったので春休みはあったような、なかったような。学生たちは毎日のように学校に来て調べものをしたり、皆で遊びに行く計画を立てたりと忙しそうだった。そんな彼らを見ていてつくづく思った、継続の素晴らしさを。 またまた学生たちが一歩も二歩も前進をした。 学生なら誰でもやっているような当たり前に思えることをする学生たちの、その変化が読み取れるようになると、他のこともすでに変化を始めているのが分り、今まで以上に彼らを観察し、内心笑いがこみ上げてくるのを抑えられなくなる。 何時ものように9時半から始まる百マス計算も含めた自習形式の基礎学習。あまりにも基礎的な勉強のため、毎回注意されてもいつの間にか何となく立ち消えのようになっていくのだが、今学期は毎日しっかり基礎学習の自習をやっている。そして、時間が少しでも出来ると予定外の例えば「この発音記号ってラテン語から来ているのかしら?」等と話し合いながら英単語の発音を確認したりと、本当に積極的に取り組んでいる。おまけに、ほとんど数学の問題が多いのだが、黒板一杯に出題されている問題を個々で解答し、最後に全員で、「導き出し方について」の意見交換をしている。一昨日などは化学の問題だったようだが「この答えをネットなどで調べず自分一人で正解できた者には、ランチを無料にします」という、オマケのコメント付で。 先日も、急病で授業が出来なくなった先生からメールで指示を受けた学生が中心となり、あたかも先生が学生たちの側で指導して下さっているのかと思えるほどきちんと授業に向きあっていた。そんな先輩の学生たちに導かれながら、何の違和感もなく一心不乱に授業に参加している新入生。その光景を目にし、狐につままれたような不思議な感じと同時に、そこに流れている何とも説明の出来ない厳粛ともとれる真剣な“学びの雰囲気”に、思わず感動してしまった。 「子供から学ぶ」の授業でも、自分の苦手と向き合うには遠慮のない子供のリアクションにさらされるのが「一番の学び」ということで、ヒラノッチが選ばれ、子供と二人でクラスを作ることになり、その間、他の学生たちは中級レベルの日本語を話すフィリピンの学生三人と、アフリカのカメルーンの学生に日本語で会話をしながら文法・発音・表現などを教えることになった。 外国人の学生たちと会話をしながら色々な話を引っ張り出し、そして訂正していくという授業。今までの彼らだと「何を話していいか分かりません。教科書か何かありませんか」等と言いに来るところだが、今回は全くそれがなく、外国人の学生たちを上手に導き、楽しく会話を進める中で授業をしている。その間、数ヶ月前ならどう子供に対応していいか分からず逃げ腰でうろうろしているように見えたヒラノッチが、子供と一緒になって学園の周りを走りまわったり、子供が決めたルールでゲームをしながらしっかり子供を観察し、子供と良い関係を築いている。 「梅雨になる前に、庭の草取りをしておいたほうがいいかも知れないわね」とふっと話した私の言葉をうけ、授業の終わったある日、気付いたら新入生も含め皆で手分けして、一生懸命草取りをしてくれていた。そんな光景に「何がどうなっちゃったの?」と、何度自問自答をしたことだろうか。それをしながらじわじわと嬉しさがこみ上げてくるし、楽しくなる。 今までと何かが違い、全てが受動的ではない。誰に言われることも強制されることもなく、自分たちで率先して行動し始めている学生たち。 サブプライムローンに端を発した100年に一度と言われるほどの不況の中、今こそ、今まで以上に何かを指示される前に自分で問題を見つけ、自分で解決する力が必要とされる社会になるだろう。上田学園では、設立当初から自主的に動くことを望んで学生たちに何でもやらせるように心がけてきた。 しかし、小さいときからずっと親や先生に指示されて来た“指示待ち症候群”の学生たち。親や先生たちに「あれやれこれやれと言われたくない!」と言いながら、実際は指示されなくなると動けなくなるという現実。それを崩すのに時間がかかり苦労をしていたが、それでも、先生たちに言われるまでもなく学生たち自身で率先して行動し、結果を出せるように成長して欲しいと、ずっと願っていた。だからこそ、今回の学生たちの動きはとても嬉しい。 春学期が始まってまだ数週間。このまま学生たちがこの雰囲気を持ち続けてくれるといいと願っている。卒業生たちのように、卒業間際から変わりだし実社会で指示される前に色々な問題を自分で見つけ、解決しながら仕事をする。それを認めてもらっていくのも素敵だが、在学中にそれが出来ると今以上に授業が面白くなり、学校という枠をとりはらった興味津々の授業を先生たちと作っていけるのではと考えるからだ。 ほんの少しの成長でも、学生たちの成長はとても嬉しく「どんなに大変でも頑張らなくちゃ」と思わせてくれる強力なビタミン剤だ。そして卒業していった学生たちの活躍は、後輩のいいビタミン剤になっている。 入社8ヶ月で営業成績が1位になった卒業生のナルチェリン。その後も初心を忘れず努力を続け上位の営業成績をキープし続けた結果、今月主任に抜擢されるとか。オギッチも3回目の舞台の稽古に入り、舞台の合間に一生懸命アルバイトをしている。タッチもスペインでの撮影から一月ぶりに戻り、放映に向けて編集をしながら次の企画のためにベトナムへ飛んだりと、大忙しのようだ。タイの大学で教えている金谷もシーシーも日1日と教師として成長し、学生たちのために一生懸命な様子がメールを通して伝わってくる。もうすぐ二人の子供の父親になるノロタをはじめ、大学や専門学校へ行っている卒業生も頑張っているようだ。就職活動をしているハチマキ君も、顔つきが毎日素敵に変化している。みんなみんな、誇らしく思えるほど頑張っている。 卒業生や在校生を見ていると、彼らは竹の子ようだと思う。土の中からチョッと顔を出した竹の子に気がついても、ほんの数日間見なかっただけでいつの間にか根をもっとしっかり地に這わせ、しなやかに天に向かって伸びている。そんな竹の子のような彼らが、今以上にしっかり足を地に着け、大空に向かってずんずん伸びていけるよう応援し続けたいと考えている。100年に一度の不況と言われる今を“生きた教材”とし、てんこ盛りの挫折を経験するその中で、何事にも動じない「本物の力をつけて欲しい」と、そんなことを願いながら。 |