●学園長のひとり言 |
平成22年2月10日
苦手な英語が思わず口をついて出てきた。何も心配することはない。それぞれの学生たちにかならずその時期が来る。そんな思いで卒業生たちの話を聞きながら、楽しくて、嬉しくて顔が自然にほころんだ「The time has come!… Spring will come soon!かな?」と。 私はいつも「いい友達を作りなさい」と、学生達に言い続けている。そのために、「友達になりたいと思われる人間になりなさい」とも。また友達がいない。友達の作り方が分らない。友達が欲しい。「だから上田学園に入りたい」と言って入学した学生達には、友達になりたいと思ってもらえる人間にならなければ、友達はできないし、自分ならどういう友達が欲しいかをしっかり考え、自分でも欲しいと思えるような、そんな友達になれるように努力をするべきだとも話している。そしてその話の中には勿論ボーイフレンド、ガールフレンドも入っている。 とはいえ、今の女の子たちは心も体もまだ未熟なうちに大人の世界に足を踏み入れてしまい、その結果、男女間で何か問題が起きると、精神的に幼い男の子の方が加害者ではなく被害者になる傾向があるように感じていたので、そのことに関しては結構踏み込んだ話を学生達としていたが、そんな心配は無用だと思われるほど、学園在学中は自分のことで精一杯。華やかな話は皆無に等しかった。 The time has come! そんな言葉が思わず口から出てきたのは、卒業生たちにいつの間にかガールフレンドがいたからだった。その話をしている間の彼らの嬉しそうな顔に、思わず笑ってしまったが。 アルバイト先、職場、学校などで知り合った女の子達と、良いお付き合いを始めているという。そんな彼らの話を聞きながら、彼らの年齢にあった普通の生活をしていることが、とても嬉しかったのだ。それも、社会人としても、学生としても一生懸命に邁進しながらなので、なおさらのこと嬉しく感じた。 「私達は結婚しました」。綺麗な大人の女性に成長した花嫁姿の写真と一緒に、そんな言葉が添えられた年賀状が届いたのも同じ頃だった。彼女は上田学園の一期生。上田学園に入学したのは15歳のとき。 小さいときからお勉強が出来、中学校へ上がるとき国立大学の付属中学へ行くように勧められていたという。しかし、色々なことがあり、中学2年生ころから不登校になっていたようだ。 礼儀も言葉遣いもきちんとし、難しい漢字もたくさん知っており、綺麗な字で書かれた彼女の文章にはよく感心させられたが、しかし、「遅れてすみません、今からすぐ行きます」という電話が来てから5・6時間してやっと学園に現れる彼女に、彼女が来たら一緒に何かしようと待っている他の学生たちをよくヤキモキさせていた。遅刻は日常茶飯事、休むことも多かった。 上田学園に入学した2年目。上田学園と平行して夜間高校に行きたいと言い、昼は上田学園、夜は都立の夜間高校に行き始めた。しかし、昼の学校も夜の学校も休むことが多く、そのうち、夜の学校を辞めたいといってきた。 学校を辞める理由は、彼女の中にたくさんあった。しかし、中学生のときから今まで、最後まで何かをやり終えるという経験を全くしてこなかった彼女に、「終点の駅がどんな駅か全く知らないで途中下車ばかりしてきたのだから、今回は絶対終点まで行き、終点がどんな駅か見てきなさい」と、高校中退は認めなかった。 夜間高校の4年生になった春、上田学園を卒業。卒業の数ヶ月前くらいから、なんとか学校へは行くようになっていたが、昼は何もせず夜だけ学校へ行くようになると、彼女の生活はまた元のようになるのではないかという心配と同時に、その頃から勉強したいことや、そのために行きたい大学の名前などもあがるようになっていたこともあり、「途中下車反対」を撤回し、大学へ行くのに足りない単位は大検[現在の高校卒業資格試験]で取り、高校卒業を待たずに大学へいくことを勧めた。 「入試の勉強は全くしていなかったので、多分受からないと思います」と、AO入試枠で希望大学の受験をしたその報告を聞きながら、小論文のテーマが、学園の授業では当たり前のこととして取り上げられる内容だったので、合格するだろうなと内心考えていた。そして無事合格。新大学生として友人も出来、嬉々として学校へ通っていることが彼女の口から語られ、「上田学園でリサーチの勉強や色々な勉強をしていたので、他の学生が苦労している授業でも、宿題のレポートでも簡単に書け、内心『皆に付いていかれるかな?』と心配していた大学の勉強。こんなに易しいとは思いませんでした。」等と書かれた季節の挨拶状を読みながら、彼女に居場所が出来たことを心から喜ばすにはいられなかった。そして「フランス系の証券会社に就職が決まりました」と報告をしてくれたのは、数年前のことだった。
The time has come! 一生懸命生きていたら誰にでも“その時”が絶対来る。それを信じて上田学園の学生達には今年も一生懸命頑張って欲しいと願う。幸せなことに、先輩達が一生懸命彼らの後ろ姿で見本を見せてくれているのだから。 「今日の温度はマイナス1度です。雪は降りませんが、寒い1日になります」そんな気象情報を聞きながら、片道2時間近くかけて日本語の勉強にくる学生のために教室を暖めておこうと急いで学園のドアを開けると、何時ものように卒業生のナルチェリンが仕事に行く前の「仕事の準備」をコンピューターに向かってやっていた。そして社長から、今までのように営業もしながら少しずつ雑誌の編集に携わっていいという許可が出たと報告してくれた。 編集がしたくて入った雑誌社。しかし、まだ若いから編集の前に営業経験をということで、関連会社の営業マンとして、お客様である本屋さんから気付かせてもらったり、感じたりしたことを自分の営業日誌に書きとめたり、企画書にまとめて会社に提出したりと、誰かに認めてもらえるわけでもない努力を、日々していたようだ。その企画書が初めて社長の目にとまり「面白い!」と言われ、「社内報に連載で何か書かないか」と言われたと話してくれたのは、去年の12月だったように思う。そして今、編集の仕事にも携わっていいという許可が出たという。 今上田学園に出来ることは、そんな卒業生たちが家に帰る前に学園により、お茶を飲んでお菓子をつまみながらほっとしたり、次の日の準備をしたり、情報交換をしたり、後輩達と雑談したりする場として、今以上に居心地良くいられるよう心がけることだけだ。 The time has come! そして Spring will come soon.の匂いに包まれて、どんな問題が上田学園に起こっても、今までと同じように「頑張って行こう!」学生達を信じて「応援していこう!」という思いにさせてもらっている。 それにしても思い出すと笑いが止まらない。鼻をピクピクさせたり、嬉しそうに、恥ずかしそうに、でも言わずにはいられないかのように「ガールフレンド、います」「今、付き合っています」と言ったあの笑顔を思い出すと。 |