●学園長のひとり言

平成22年7月30日

「だから?」の問題で、ひきこもり70万人

この世は、自分中心には動いていない。この世には、他の存在があり、他は自分でないからこそ他と自分との間をコミュニケーションという手段で橋を架ける努力が不可欠だということを、どうして子供の時から親は教えないのだろうか。

「7月24日(土)読売新聞1面トップにひきこもり70万人の内閣府推計の記事が出ていましたので、コピーして置いときます」こんなメモと一緒に、新聞記事のコピーが私の机の上においてあった。非破壊検査の会社で働いている社会人1年生の卒業生、八巻君からだった。

夏風邪を引いて会社を休んでいると聞いていたので心配していたが、元気になったのだろうとホットしながら、新聞記事に目を通し、同じ記事を読んだという旅行の先生の「今のひきこもりは、ひきこもりではなくて、ひきこもらせているんだよ」という言葉を思い出していた。

記事は言う。推計ではあるが、「ひきこもり」が全国で70万人。将来「ひきこもり」になる可能性のある「ひきこもり親和群」が155万人に上るとか。そして今後さらに増える可能性があるとか。おまけに「引きこもり群」の66%が男性で、そのうえ年齢別では人生の中で一番面白い、また大切な時期に入ると思われる三十代が46%を占めているそうだ。

記事を読みながら数回ではあるが「ひきこもっている」または、「不登校をしている」という息子さんが40代。その80代の親御さんから「私たちの年金がなくなったら息子はどうやって生きていくのでしょう」というご相談のお電話を受けた。そのときに「日本は落ちていくな」「世界から置いていかれるな」いよいよ日本の総若者「中国に出稼ぎだ」という考えが、また頭をよぎった。

引きこもりの定義は「普段は家にいるが、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する」「普段は家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」が6ヶ月以上続いている人。また、ひきこもりになったきっかけも、病気をのぞくと、「職場になじめない27%」「就職活動が上手くいかなかった20.3%」「不登校(小・中・高)11.9%」「人間関係が上手くいかなかった11.9%」「大学に馴染めなかった6.8%」「受験に失敗した(高校・大学)1.7%」だという。そしてこの調査結果を分析した委員の方は「高いコニュニケーション能力が必要な時代になり、それが出来ずに引きこもる若者が多いようだ」というコメントをしている。

「ひきこもり」「就職氷河期」「大学生の学力不足」などの記事を読むたびに
また教育関係者や評論家の方々のコメントを目にするたびに、何か納得出来ない思いで、どうもすっきりしないのだが。今回の記事も同じだ。

高いコミュニケーション能力とは、どんなコミュニケーション能力なのだろうか。普段は家にひきこもっているが、自分の趣味に関する用事の時だけ「外出する」とか、近所のコンビニなどには「出かける」とか。そんな記事を読むと、「ひきこもりって何?」と考えてしまう。そして「職場に馴染めない」「就職活動が上手くいかない」「人間関係が上手くいかない」「大学に馴染めない」「受験に失敗した」など、ひきこもった理由を読むと、他と共存して生活する人間社会では当たり前に起こることばかりなので、意地悪なようだが思わず「だから?」と言いたくなる。そんなことで「ひきもるな!」と言いたくなる。

改めて旅行の先生の言葉を思い出す「ひきこもりではなく、ひきこまらされている」のだと。つまり、ひきこもろうと思っても、ひきこもったら「まずい!」という思いを抱く人や、「生活出来ないから」と、思いとどまる人もいるだろう。しかしこの数字をみるかぎり実際は、環境がひきこもりを許し、いつの間にか引きこもりを許す環境に、人がひきこまれていると。

世の中、思うようにならないのが当たり前。だからチャレンジする。チャレンジするから面白くなる。しかし今の日本の環境は自分が満足できないこと不満に思うことは、自分から自分が満足できるように努力するということはしない。まず、相手を自分に合わさせようとする。それが一般的になっている。その証拠に、教師を潰してしまうモンスターペアレンツ。お金があっても絶対給食費を支払わない非常識な親。罪を犯しておいて逮捕の仕方が悪いと訴える犯罪関係者。

権利という名のもとで自分の行動を省みることなく、相手にばかり要求を出す。また、そんな人たちを諌める前に擁護する社会。そんな社会が職場や学校に馴染めないとか、人間関係が上手くいかないとか、受験に失敗したとかの理由でひきこもることを無意識に認めてしまっている。

つくづく思う。サブプライムローンの問題以降、日本の経済も他の国同様、閉塞しているといわれ、事実親御さんたちは「給料が安くなったので、困る」とか「ボーナスが・・・」とか言ってはいるが、実はそうではないのだと。だから、働き盛りの三十代を筆頭に70万人もの人がひきこもることが出来ているのだろう。それも自分の趣味に関する用事のときだけ外出するという、経済的に余裕のある、食べることには困らない、とても幸せなひきこもりの皆さんがいるという事実。

内閣府は今回の調査にあわせ、自治体や学校への支援の手引書をまとめたそうだが、その内容はどんなのかは知らない。しかし、この問題を解決するためには日本が大人社会にならないといけないと思う。

他を叩く前に自分を叩ける成熟した大人集団が日本を引率しないかぎり、引きこもりを認められた子供たちと同じレベルの大人たちの社会では、この問題は際限なく続いていくことだろうと。

将来日本を担っていく若い人たちの大きな問題は、色々ある。その一つが就職であったり人間関係であったりするが、その全ての問題は子供が小さいときに、大切に思い「一生懸命可愛がること」と「甘やかすこと」の違いを見極めた親が、子供は自分の子供であっても私物ではない一人の人。個としての存在であり、どんな環境の中でも一人で歩き出せるよう、動物としての本能的な愛情を持って子供の問題とどう向き合いながら教育していったかに、関係してくると思う。

今からでも遅くはない。気付いた人たちから、自分は子供を私物化していないか。一人の人間としてどう他を敬い、期待し、会話をするのかを子供に見せながら実践しているか。客観的に自分と子供の関係を確認し、自分の生き方の軌道修正をしながら、子供と一緒に成熟した大人の親になれるよう努力をするといいと思う。

問題が複雑に見えれば見えるほど、起こる問題が悲惨になればなるほど、その問題を解決するには人間として原点に戻り、目の前にある日常的な出来事をコミュニケーションをとることで解決していく。それも、自分たちが群れて生きる動物であることを自覚し、群れの中でどう生きていくか。「しつけること」と「保護すること」を明確に区別しながら、自分の背中で子供たちに学ばせる。

ひきこもり推計70万人。その予備軍155万人。その数を聞くと恐ろしくなるが、解決方法は本当に単純なことだと思う。残念なことに、知恵者ではなく高学歴者の多い今の社会では、単純は歓迎されないムードがあり、自分達で複雑な問題にし、納得し、そして「大変だ、大変だ!」と皆で騒いでいるように思える。そんな時間があったら子供のことは外注せず、自分の考えと言葉でしっかり教え導いていくべきだ。特に子供が小さければ小さい時ほど、子供にとって最初の先生である親が、子供としっかりコミュニケーションをとりながら子供と向きあえる時間に感謝しながら。

 

 

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