●学園長のひとり言

平成22年9月2日

就職難は、大きな人生の学びの場
           だから、応援します!!

“「内定後も就活」秋の陣”という見出しに思わず立ったまま、記事を夢中で読んでしまった。これは上田学園の学生が読むために購読をしている日本経済新聞の先週の記事だ。そして企業側の「応募者の数は増えたが、質は低下した」という厳しいコメントも載っていた。

最近の学生の就職活動について書かれた記事やニュースに接する度に、新卒での就職活動が有利だからと1単位だけ残して1・2年留年する学生や、就職活動に失敗したからと「とりあえず、大学へ」から「とりあえず、大学院へ」と単に横移動する学生達。自分達では努力をし、動き回っているつもりでも、その実、就職活動にどうして失敗したかも考えず、「就職口が少ないから」とか、「経済状況が悪くなり、就職が不利になっているから」とか、原因を他に転化し、誰かが何かしてくれるのを待っているとしか思えないのは、私だけだろうか。

どのように原因をつきとめ、どのように解決するかの方法を模索したり、どのように実践するか等ということを学んでこなかったのだから、今置かれている自分の現状を分析出来ないのは仕方がないとは思うが、しかし現実、そんなことではダメだろう。まして年齢が上になればなるほど、就職は目に見えて難しくなるだろうことは、誰にだって予想がつく。

学生達に聞きたくなる。多分皆無とは思うが、教授たちは忠告してくれたのだろうか、「生き方や考え方を変えなければ、大学院に行っても就職はだめだと思うよ」と。

案の定「うちのバカ息子、単位を少しのこして2年も留年したのに、まだ就職先が決まらない。高いお金を出して大学へ入れたのに、就職も出来ないような大学、意味がない。」等という親の投書を読むと、思わず笑ってしまう。

それはそうでしょう。企業は使える人材が欲しいのであって「留年までして頑張っているのに」と言われても、この厳しい経済状況の中、自分のことは棚にあげて、企業にばかり要求することが多い仕事の出来ない人間を、同情だけでは雇いたくはないだろう。まして学園の先生達ではないが、ビジネスには公式がない。1+1=2という学校で習ったような式は、どちらかというと、当てはまらないことの方が、多い。その中で応用する力がないと仕事は出来ない。それに想像力も不可欠だ。

「答えがないから、どうしていいか分かりません。」とか、「会社が、使える人間に訓練してくれるだろう」とか、ただただ口をあけて待っているような応用力も想像力もない社員。今の社会では必要率「ゼロ」というのも、本当だろう。

就職活動に成功しない学生に言いたい。問題の先送りは絶対しないほうがいいと。留年出来るお金があったら、問題を解決したり、色々なことが考えられる力、応用力と想像力の勉強が出来る上田学園のような学校で1・2年しっかり勉強したほうが、最短で「就職活動不成功」を自分で解決できるようになると思う。

「就職活動を有利にするための留年だからいいけれど、就職も出来ないのに、次の学校へ行くの?」等という不満の声が聞こえてきそうだが、確かに資格はとれるが無意味に大学院へ行ってただただ問題の先送りし、問題がもっと難しくなるより、一見、時間もお金もかかってもったいないように思うだろうが、実際に身につけたことは、時代が変わろうと、状況がどう変わろうと、場所が変わろうと、サバイバル出来る能力として一生涯使えるものだ。上田学園の卒業生が実体感しているように現実、安いものにつく。まして問題の先送り等をして、なんとかその場をごまかして、なんとか就職した人と違い、30代や40代になって「職場になじめなかった」などという情けない理由でひきこもる「ひきこもり予備軍」には、絶対なり得ない。

卒業生に言わせると、上田学園は「学校であって学校じゃない不思議な場所」だが、何が一般の学校と違うのかと言うと、一般の学校にあるような資格もとれなければ就職の斡旋も、何もない。まして校舎は女子学生が喜ぶようなファッションビルでもなければ、フランスレストランのような学生食堂などもない。おまけに夏休み・冬休み、ゴールデンウイークはあってないようなほど色々やらされる。語学が「出来る、出来ない」に関係なく、海外での実習でお客様の前で赤恥をいっぱいかされる。教師が現役の社会人で、問題を見つけ、調べ、分析し、まとめ、発表するということをやらされるため、夜遅くまで学校に残ることも多く、在学中にアルバイトをする暇もない。

一般の大学と上田学園が共通しているのは、「時間割がある」ということだけだろう。それでも、相談にはのるが、資格もなく、就職の斡旋も何もしてもらえない学園の卒業生。就職活動は授業の延長と考え、何回就活に失敗しても、めげない。何しろ彼らに言わせると、就職活動中だからこそ、どんな会社にも正面から訪ねて行けるし、話が聞ける。その上、社員の応対などから、この会社は一般に言われている会社とは「違う」とか、思った以上に「きちんとしている」とかが分かり、「内定は勿論欲しいけど、それ以上に、普段会えない色々な企業の人に会えるのは、自分の人生の中でも就活の時が一番だと思うので、勉強させてもらっています」と、どんな扱いされても前向きで、一つ一つの問題点をピックアップし、解決できるものは解決し、出来ない現実は、それとどう向き合うか色々考えながら就職を勝ち取って行く。

“ひきこもり”であったり、“不登校”であったり、学校“中退者”であったり、コミュニケーション苦手から“問題児”であったりした彼らだったが、社会人になると常に前向きに仕事をするようになる。

叱られるとそれをよく考え、訂正し、そのうえで注意されたことや、叱ってくれた上司の話の内容から色々な考えをめぐらし、それを企画書にする。苦手な取引先の担当者について色々調べ、何か共通しているものを探し、苦手意識を克服する。好意的な相手には、その人が絶対事務所にいる時間を調べ、リストアップし、その時間に尋ねる等、攻めの体制で仕事をするためか、注意されて一時的に落ち込んでも「なにくそ!」と思い、空手では立ち上がってこないようだ。

何があっても「なにくそ!」と立ち上がってこられるのは、卒業後は社会人の先輩として学園の先生方に仕事の話を聞いてもらい、また活躍している場は違うが、卒業生同志が互いの行動から無意識に刺激を受けあい、学びあい、精神的に助け合っているからのようだ。その上、学生時代には考えられないような数の本を読んだり、勉強をしたりしていることも、大きな支えになっているようだ。

そんな彼らに何気なく「大変ね」と言うと、「皆にそう言われるけれど、それが当たり前だと思うようになってから卒業したので、あんまり『大変だ!』と思ったことはないです」と言われてしまう。もしかしたら、ここが一般の学校を出た学生達と上田学園の卒業生の違いなのかもしれない。もちろん、一般の学校の優秀な卒業生は、当然もっとすごいとは思うし、そんな学生さんは、就職難民にはならないだろうが。

在学時代、「非難は禁止。非難は単なる難癖だから話し合いが出来ない。でも批判はいい。大いに批判をしなさい。批判内容が正しいか正しくないかではなく、自分なりの判断基準があっての批判なので、その判断基準をもとに話し合いが出来るから」と、よく言っていたが、まさに社会人になって、しっかりそれを実践し、「注意されたから辞める」などという選択ではなく、ステップアップのためにしか離職を考えない姿勢が、学園卒業生に就職難民がいない理由だろう。

政府は就職活動を応援するために色々企業に働きかけたり、卒業しても3年間は新卒者として扱うとか、新卒者を採用すると「何々金」と言ってお金を出そうとしているようだが、そんな見せかけの救済をしても、根本問題が解決されていないので、「思っていたような仕事でなかった」とか「職場が面白くなかった」と、単に離職率を高くするだけではないだろうか。

就職出来ない学生の問題はそんな問題ではないように思う。それは企業が「社員は欲しいのですが、欲しい社員になれそうな人材がいません」と言っていることに耳を傾け、本当の問題点は何かを、しっかり政府自身の目で見るといいと思う。単なる選挙の票集めという目先の対策のために、将来の日本を背負って立つ若い人を、利用しないで、欲しい。甘やかさないで、欲しい。

学生は偏差値から学校を選び、どこでもいいから「まず大学へ」ではなく、本当に勉強したいのか。どんな勉強がしたいのか。何のために大学へいくのか。大学は何のためにあるのか。しっかり考え、そして人生の中の大切な4年間を只々無駄にしないよう、本来の学生時代を謳歌し、学生時代をしっかり終えて就職していくというプロセスをふむことを、おすすめしたいと思う。

就職難はいつの時代も個々の上にある。ただ、就職難の人が多いか少ないかで、社会やマスコミの取り上げ方が違うだけだ。それは就職だけに限ったことでは、ない。

自分を自分らしく上手にアピールすることも大切だが、まずは、「貴方が必要です。」「貴方の会社が必要です」ではなく、自分が必要とされる人間になることだ。必要とされる人間とは、人のために一生懸命なれることだ。人のために一生懸命になれる人は、そこからアイディアが浮かび、それを求めて人が集まり、必然的に必要とされるようになるからだ。

就職難を嘆くのではなく、就職難を逆手に取り、自分を磨く最良のチャンスととらえ、今まで考えてもこなかった「私は誰?」「どんな人?」「どんな生き方をしたいの?」「何が出来るの?」など、就職試験を通して、外の人たちの目で自分を見直し、たたき直し、磨きをかけ、どんなことが起きても動じない自分を作ってから、社会に出て行って欲しいと思う。たとえ少々時間がかかっても。それが社会人としてこれからの長い人生を歩いていく上で、自分で自分の人生を楽しめる最短の方法だと思うから。

上田学園の卒業生に言い続けているように、100年に一度という不況時代に社会人生活をスタートすることが出来る幸運に感謝しても、悲観する材料にはならないと思う。この数年間の努力は、どんな時代になっても、どんな状況下に置かれても、何とかやっていける基礎になると思うからだ。

上田学園では、就職戦線で頑張る卒業生を応援するために、また無事社会人としてスタートしても、彼らが波に乗るまで美味しいお菓子や飲み物をそろえ「カフェ、上田」や「赤ちょうちん、上田」を24時間営業し、就活の話、仕事の話、失敗談やそこから這い上がろうと頭をつかい、努力している話を嬉しい気持ちで聞かせてもらっている、“元彼らの教師”という特権で。

上田学園は授業をいつでも開放しております。卒業生と同じように美味しいコーヒーでも飲みながら、ぜひ、こんな学生が育つ授業を見学して頂き、何かのご参考にして頂きたいと思います。

 

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