●学園長コラム

平成23年11月19日(土)

「親から子への貧困の連鎖」という記事に思うこと



「急増 生活保護 親から子へ貧困の連鎖」11月12日の読売新聞にこんな
タイトルの記事が載っていた。

その記事は言います。「親が生活保護を受け、その子も同じ境遇になることは珍しくない」と。そして「現行の生活保護が創設されて60年余。受給者が親から子へと続く「連鎖」が深刻な問題になりつつある」と。また、08年と10年に生活保護を受給するシングルマザー計318人を抽出調査すると、うち約3割は受給世帯で育っており、また5割以上が中卒か高校中退で、「生活保護の受給と学歴の間にも強い相関関係がうかがわれた」と。そして連鎖を止めるためには「子供の学びが大事」ということで、実際生活保護世帯中学生の無料塾も開かれていて、その塾で学び県立高校へ入った女子高生が「中一ぐらいから勉強が分からなくなったけれど、誰にも聞くことが出来ないし、塾にも行けなかった。教室のおかげで高校に進めて良かった」と。しかし現実的に、受給世帯では、子供の教育に対する親の関心が低い場合が多く、無料塾に参加した割合は低いと言う。そのために、「親への働きかけも重要だ」と新聞記事は言う。

この記事を読みながら、思わず何度も「そうかな・・・?、本当にそうなのかな・・・・?」とつぶやいてしまった。

この記事の中で私が気になったのは、生活保護の受給と学歴の間にも強い相関関係がうかがわれるという個所と、受給世帯では、子供の教育に対する親の関心が低い場合が多い。だから親への働きかけも重要という個所だ。

生活保護を受ける方々の理由は、個々で違うだろう。また、事実生活保護を受けることに抵抗があっても、学歴が中卒のために仕事がもらえない人もいるだろう。しかしなのだ、シングルマザーで保護を受けている方には割と早婚の方が多いように思うのだが。また、若い方々全般に言えると思えるのだが、青春を謳歌している方が少ないように思うのだが。

「青春を謳歌する」という言葉は死語なのだろうか。何かを謳歌するのにお金がなければ出来ないと思い込んでいるからだろうか。「若くていいね」とか「若者らしくていいね」という言葉が口から出ることが少なくなったのと比例するように、日本語を教えている外国人学生の言葉を借りれば「若作り、それも子供のような恰好をしている日本人の中年の人はたくさんいますね。でも、大人の日本人は少ないですね」と言われてしまうほど、成熟した大人の日本人が減っているのでしょうか。だから、先に生まれた者のお役目である「先生」をしている人が少ないのでしょう。

先生というと、皆さんは学校の先生をイメージなさるでしょうが、先生は単にこの世に子供より先に生まれて生きている「生きる先輩」でしかありません。ただ、その「生きる先輩」として後輩の見本になる「先に生まれた人」が少なくなっているのだと思います。その上、今の子供は子供時代がとても短いように思います。じっくり過ごす子供時代がなく、子供時代からすぐ大人時代に入ってしまう。それも良い大人の見本がいない中で。だから、まだ遊びや学びの中で色々悩み、苦しみ、反省し、その中で生きる知恵をつけて大人に一歩一歩成長する時期に、「家庭を持つこととは?」「親になるということとは?」など、全く考えもせず動物としての本能に任せてか、またアクシデント的に妊娠してしまったり、結婚してしまったり、離婚してしまったりする中で、大人としての責任を追及され始め、独立した一個人としての扱いを受け、それに戸惑い、その責任に追い回される。

その責任にどう対処していいか分らない中、何とかしようとあがき、反省も学びも知恵も全く身についていないために、結局相手を替えただけで、今まで通りのパターンで、今まで通りの生活を繰り返してしまうのではないでしょうか。特に親子何代かで「生活保護家庭」の場合は、身近にいる見本である親が、子供より先に生きている先輩として良いお手本を見せられていないし、子供が自分を見本にして生きていることさえ気づかない。だから、いくら自分と同じになって欲しくないと願いながらも、一番悪い見本を実践して見せていることにさえ全く気付いていないこの現実。「貧困の連鎖」が起きても仕方がないとしか思えないのです。

現代は何か問題があると、「学歴がないから」とか、「社会が悪いから」とか世界的に「経済がひっ迫しているから」とか、他に問題の原因を見つけようとします。本当に学歴がないと仕事が出来ないのでしょうか。本当に社会が悪いと、貧乏するのでしょうか。「身体障害者だからとか、健常者だからとかいう区別はしておりません。身体障害者だろうが、健常者だろうが怠け者は怠け者です。悪い人は悪い人です。真面目な人は真面目です。一生懸命な人は一生懸命です。ただ身体障害者は、体が不自由な分、少し仕事が遅いだけです。でも慣れると本当に一生懸命仕事をしてくれます」と言い切り、健常者も身障者も全く区別なく採用し、給料を始め何事も同等に扱っている会社があるように、表面的な、一時的な応急処置を施すことも必要なのでしょうが、それが終わったら、根本的に「生きるとは」「死ぬとは」「家庭とは」「子供とは」「人を愛するとは」「夫婦になるということとは」「親になるということとは」「働くとは」など、人間として生きる基本をじっくり教えることの方が大切であり、それが「親から子への貧困の連鎖」を食い止める最短のことだと思うのですが。

この記事を読んで、またまた考えさせられました。そして改めて思いました、上田学園は表面的な教育はしないでいこうと。

若い人達よりちょっと先に生まれ、自分のしたいことや信念を真摯に実践しながら生きている先生方を通して、どんな時代になろうと、どんな環境に置かれようと、自分の頭でしっかり考え、自分の足でしっかり歩いて行けるその知識や、その知識を知恵に変えて賢く自分らしく生きていけるように成長するための刺激をいっぱい与え、失敗をいっぱいさせ、そしてそこから逞しく何かをつかんで、何度でも立ち上がってこられるような教育をしていいこうと。

大切な大切な学生達が、自分の足でしっかり自分の道を歩きはじめるためには、その大切な学生達をお願いする先生方を、生徒以上に大切にさせて頂く。
それが、上田学園での私の使命だと、改めて確認させられた記事でした。

 


上田学園 学園長  
上田早苗



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