大検

 

12月19日(木)、家に帰ると父親に封筒が届いているといわれた。

「なんだろこれ」

封筒を手に取り考えたが、封筒の下のほうに[21◎×4]と番号が振ってあった。見覚えのある番号だった。

何の番号か一瞬考えたが、すぐに答えが出た。

「大検のやつだ」

しかし封筒はやたらと薄かった。

たいてい合格通知と言うものは、合格なら厚く、不合格なら単純な文章が書いてある紙が入っているだけで、薄いときまっていた。

「ああ、こりゃ落ちたな」

封筒の厚さからして落ちたと確信したが、たいして動揺しなかった。動揺する理由がないからだ。

もともと大検を受けた理由が、落ちることを前提に、空気を味わいにいくためだったからだ。

封をあけ、中身を取り出してみると、薄い紙が一枚出てきた。

文章には

[検定合格に必要な科目数に達していません]

という文字が書いてあった。

「やっぱり落ちたか〜」

多少なりとも、受かっていたらラッキーという思いがあったため、少しがっかりした。

だがすぐに気をとり直した。

「ま、いっかー。どうせダメもとだったんだし」

紙を放り出し、他に何か封筒に入っていないかと、ひっくり返して振ったら、中からやたら小さい紙が落ちてきた。

「なんだろ、これ」

見てみると

[科目合格通知書]

と書いてあった。

「ハァ」

動揺した。

さらに[合格した科目]という項目に、いくつか文字が書いてあり、何度も科目と合格数を確認した。

「…、受かった。六科目受かった」

この時本気で焦った。

そしてその声を聞いた母親が突然台所から来た。

「見せてみな」

合格通知書を母親に渡すと、それを見た母親が、突然怒ってきた。

「なんで、もっと早く受けなかったの」

「…」

何も言い返せなかった。

母親には、二・三年前から、大検を受けるように言われていたからだ。

確かにあのころ受けていたら、さほど勉強のことも忘れていなかったろうし、もっといい結果を出せたと思う。

その瞬間いつもの(そのとき嫌だったが、そのあと結局やることとなり、あの時やっときゃよかった)と思う感覚に襲われた。

だが、そのことを母親にあまり悟られたくなかった。

「ま、六つ受かったんだしいいじゃん」

なんとかその場をごまかそうとしたが、母親にさらにきついことを言われた。

「もしかしたら、まちがいでした、って連絡がくるかもよ」

ギクッとした。

その可能性が、かなりあるような気がしたからだ。

なんといっても大検のための勉強時間は、総合しても5時間にも達していない。

しかも選択科目は、大検会場でアカバンがAを取るといったので、なら俺はBを取るなど、かなりメチャクチャな選択をしたからだ。

「ハハハ…」

笑いながらその場を離れ、部屋に行った。

部屋に戻ってからは、ひとまず大検のことは忘れ、その日ビデオに録ったアニメの編集を始めた。

編集を始めてしばらくすると兄が帰ってきた。

と、下から突然絶叫のような声が聞こえてきた。

「マジで。なんだよそれ」

うるさいなーと思いながら、無視してアニメ編集を続けた。

もし大検のことなら、いつものごとくダースヴェイダーの曲を口ずさんで、僕の部屋にやってくるだろうし。

だが部屋には来なかった。

なんとなくホッとした。

それから三十分ほどしてアニメ編集が終ると、こたつにあたりに居間に戻った。

「オイ、合格通知見せろ」

居間に入ろうとした瞬間、突然兄が迫ってきた。

「俺は見るまでは信じないからな」

兄はかなり殺気だっていたため、急いで科目合格通知書を見せた。

科目合格通知書を見ると、兄から殺気が消え、今度は崩れ落ちた。

「マジで、六つも受かってやがる。俺の高校三年間っていったい…」

兄が崩れ落ちるのも当然である。兄が三年間通い続けた結果の三分の二を、大検という形で一瞬でとってしまったのだから。

「こいつが勉強してるところなんか見たことないぞ。ビデオ編集は、一生懸命してたけど」

かなり鋭い指摘だった。

兄の言うとおり、確かにビデオ編集しかしていなかったからだ。

それは上田学園に通いだし、生活習慣が変わったことで、いかにしたらビデオを編集する時間を作れるかということばかり考えていたためだった。

その結果、大検を受ける身でありながら、ほとんど勉強しなかった。しかも、五時間程度とはいえ、勉強した科目は全滅で、ぶっつけ本番だった科目が受かっていたのである。

「クソ〜、今年度最大のショックだ」

兄はぶつぶつ言いながら、突然財布から金を取り出した。

「取るなら取れ。でないとしまっちまうぞ」

「…」

兄の気迫に一瞬ビックリしたが、無言でお金を取り、自分の財布に一気にしまった。

そのあとも、兄は何度かため息をついていた。

 

次の日、科目合格通知書を持って上田学園に行った。

知花君と会い、おたがいに大検の結果を話した。

その後アカバンと話しをしていたら、自分と送られてきた書類が違うといってきた。

アカバンが封筒を持ってくると、封筒の厚さからして違っていた。

中身を見ると、僕のとは違い、結構大きい書類などが入っていた。

アカバンは、全部の科目が受かっていたのだ。

「さすがニュータイプ」

思わず言ってしまった。

 

こうして僕の今年度の大検試験は終った。

 

 

  

 

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